□贈り物
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「ムスカさん、これなんてどうでしょう?」

ナツメが手に取った服は真っ赤なドレス。
少々値は張るが、都市ではとても流行している型である。
それを手に取り、広げてみせる。
ムスカは頷いてそれに似合うような靴や髪留めなどを店員に持ってくるように頼んだ。
ナツメはそれを見ながら、またいくつかの候補を上げるが
ムスカの中ではその赤のドレスは購入が決定しているようだ。

店員が集めた商品を前に、ムスカが購入する物を選んでいた。
その横でナツメがショールを取り上げた。
そしてそれを広げ、模様と手触りを確かめるように優しく撫でる。

「あら?…これ、」

「お客様!お気づきになられましたか。そちらは都市では品切れになっている商品でして…」

ショールは象牙色の美しい物だった。
光の当たり加減で星がちりばめられたように光る。
模様も編み方を変えている程度の物で、どんな服にでも合うようなショールだった。

「とても綺麗だわ…」

ナツメはショールを見ながら感嘆の声を上げた。
色も模様も手触りも申し分ない。
値段を見て少々高すぎる気もしたが、都市にないといわれてそれも気にならなくなった。
特別に欲しいという気持ちではなかったが、そのショールが他の誰かに買われてしまう事は嫌だった。

「これ」

「これらをすべて。あと、このショールも」

ナツメの声をかき消し、ムスカが店員に伝えた。
彼女の手からショールを預かり、商品をたたみ始めようとしていた店員に渡す。
ナツメが驚いてムスカを見ると、ムスカは少々意外そうな顔をした。

「…欲しいのでは?」

「えぇ。…でも、自分で買おうと思って」

「愛する女性が自分のために美しくなってくれる。それに一役買う物を私が女性に払わせるとでも?」

それとも愛する人は私ではありませんか?
意地悪くムスカが問うと、ナツメは首を振って否定をした。
頬が少し赤いのは気のせいではないだろう。
そんなナツメを見てムスカはくすりと笑い、ナツメは驚きに目を丸くした。
贈り物にしては高い物をプレゼントしてくれる事にも、
自分の事を"愛する女性"だと言った事にも。

ムスカは余裕の笑みを絶やさず、店員を待っている。
店員が戻ってくると、気を利かせたのか買ったドレスとは別にナツメにショールを手渡した。

「羽織って、見せてもらえますか?ナツメさん」

促されてショールを羽織る。
ショールはナツメの肌の白さを浮き彫りにする。
店員もムスカもその姿に嬉しそうに笑い、感嘆のため息を吐いた。

「とても似合っていますよ、ナツメ」

ムスカの言葉にナツメは嬉しそうに笑い、礼を言った。
買った商品を持つために店に入ってきたムスカと行動を共にする男たちにも
そのショールを褒められ、ナツメはもう一度ムスカに礼を言った。




贈り物

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