□囚われた詐欺師
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10月。
暑い熱い夏はとっくに姿を消し、暦上にも秋が始まっている。
立海大附属中学は文化祭が近いこともあり慌ただしい日々を送っていた。
買い出しをする生徒や劇のセリフを覚えるのに必死な生徒、飾り付けを制作する生徒とたくさんの生徒があふれかえる中。
仁王雅治は青い空の下、告白をされていた。


「仁王くん、今つきあってる人いないんでしょ?私とつきあってよーぉ」


風に乗ってにおってくる強い香水のにおい。
けばけばしい化粧。
アピールするように短くされたスカート。
かわいこぶりながらも、仁王と絡めた腕を自分の胸に押しつけている辺りが計算高いその女。
仁王はさもめんどくさいという態度を崩さず、そのまま無言を貫く。


「でぇ、文化祭とか一緒にまわろ?ね、いいでしょぉ〜?」


のばされた語尾をうっとうしく思ったのか、仁王が軽く女をにらみつける。
その視線の冷たさに女は小さく息をのんで化粧で黒々と縁取られた小さな目を見開く。
絡められていた腕を振り払うようにして抜くと、仁王は全く色のこもっていない声で低く言い放った。


「さっきからうざいんじゃ。さっさとどっか行きんしゃい」


女はそのセリフに顔を真っ白にした後、激昂したように声を張り上げる。
だがそれも仁王の耳には入らず、平然とした態度にさらに女は怒りを増幅させる。
女が怒りにまかせ手を振り上げた瞬間、仁王は驚くほど冷たい視線で女をにらみつけた。


「ヒッ!」


その鋭さと冷酷さに女は声を上げて恐れをなし、振り上げた手もそのままに固まってしまった。
そんな女を鼻で嗤うと仁王は屋上を後にした。


***
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