□歌姫
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舞台袖で出番を待っていた春間中の合唱部は、客席で起きた小さな事件をそこから覗き見ていた。
目を引く銀髪の男が先ほどまで歌っていた出演者に絡まれたのだ。
しかもよく聞けば、公立、人数が少ない、期待できない、とひどいことをサラリと言っていた。
係員が慌てて飛んでくると、もう少しお待ちください、と言ってまた慌てて帰って行く。
ただでさえ出場校の中で一番人数が少なく下級生ばかりの部だというのに、これ以上緊張をあおられたくない。
そう思って部長と副部長がその光景を見守っていると、男がピシャリと言ってのけその場を締めた。
ホール全体に響いた朗々とした声に、下級生の何人かがうっとりとした表情を見せる。
それを見た部長は慌てて部員を集めて手を繋いで輪になると、小さくかけ声をかけ気合いを入れた。
すると、それを見越していたのかちょうどいいタイミングでブザーが鳴り、発表が再開された。


「春間中学合唱部の皆さんです」


アナウンスの声の余韻が消えると、指揮棒が上がる。
彼女たちは息を吸い込むとゆっくりと歌い始めた。
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