□支え
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出場校の中で唯一のスタンディングオベーションをもらった春間中の生徒たちは沸き立っていた。
中にはうれしさのあまり泣き出す生徒すらいる。
今日までの練習を思い、頑張った…苦労したかいがあったね!と先生に抱きしめられているのは現部長だった。
引き継ぎはとうの昔に終わっている。
そして今日のコンサートをもって、元部長と元副部長は引退する。

ーーー引退、か

棗は静かにメンバーたちを見回した。
3年は部長と副部長の自分だけ。
あとの10人全員が下級生だった。
有名な吹奏楽部の陰に隠れるように存在していた合唱部。
毎年毎年人数の少なさに泣かされ、大きなコンクールに出ることは叶わなかった。
だからこのコンクールで認められたことがこんなにも嬉しいのだ。


「棗ちゃんのおかげね」


先生の声が聞こえた。
棗はゆっくりと顔を上げると、驚いた顔をしていた。
けれど周りは納得がいくのか先生も他のメンバーもみんなうなずいている。


「やっぱりさ、声楽科に行きなさいよ。棗ちゃん」


自信がない、と断ろうとしていた声楽科への道をもう一度示され、棗は困惑した。
だが後輩たちの笑顔に、口が重くなって開いてくれなかった。
友人は自分の手を取ると力強く握りしめる。
そして笑った。


「棗はさ、人の心を動かす声を持ってる。あの銀髪の人も…泣いてたよ。見た?」

「…うん、」

「絶対さ、棗の声で泣いたんだと思う。ずーっと棗のこと見てたもん」

「……そ、んな」


後輩たちのうなずきは何度も繰り返される。
そして友人と同じように嬉しそうに笑むと、現副部長が口を開いた。
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