□すべてが
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仁王の態度が明らかにおかしくなったのはその次の日からだった。
今までイライラして態度が横柄になったり、視線に殺気がこもっていることは数えきれぬほどあった。
けれど今の態度はそうではなく、生気が抜けたとでも言うのか。
学校生活のほとんどを無気力で過ごし、抜け殻のようになってしまったのである。
女たちが声を上げても何もしない。
なにかされそうになっても抵抗らしい抵抗もせず、ただ時が流れるのを待つだけ。
机に伏せられた大きな身体は小さく見え、ブン太も他の部員たちも心配していた。
問い詰めても仁王の口から聞けるのはそうなった理由ではなくため息だけ。
その態度は一週間経とうが10日経とうが変わらず、むしろ日に日に悪くなっていった。
自分でも異変を感じているのか仁王は何度も春間中学へ足を運んでいた。
だがいつもの公園で耳にしたハーモニーの中に彼女の声はなかった。
最初は風邪だなんだと理由を付けてそれを認めていなかった仁王だが、ついにその2文字を受け入れた。
それは、引退。
自分も夏が終わって後輩にコートを明け渡したのだ。
声の主も3年で、あのコンサートが引退前最後の舞台だったと考えればつじつまが通る。
けれど仁王にとってその言葉は、彼をまた心の死に一歩近づけるものだった。

帰り道、バスに揺られながら春間中学の前を通り過ぎる。
乗り込んでくる生徒たちの中に、自分が求める人はいない。
ただそれだけのことに涙腺が緩み、仁王は前髪で必死に目元を隠し、音もなく落ちた涙の冷たさに誰にも聞こえない悲鳴を上げた。







>あーー…。わしは、こんなに弱かったかのぅ…
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