□オペラの筋書き
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いつものように交差点で友人を待っていた棗は、待ち合わせの5分前になって忘れ物に気がついた。
忘れ物は携帯と楽譜。
携帯はまだいいとしても、楽譜はかなりまずい。
このまま榊のところへレッスンに向かうというのに、楽譜を忘れたとあってはレッスンに行く意味がない。
慌てた時、待ち合わせていた友人が坂の奥から大きく手を振ったのが見えた。
棗自身も大きく手を振ると走り寄って事情を話した。
友人は珍しいね、と棗の失敗を笑った後気を遣って先に行くと言い出してくれた。
棗は何度も謝った後素早く踵を返して家までの道を走っていった。

家にはちょうど出かける前だった母親がいて、棗は靴を脱ぐことなく忘れ物を手にすることができた。
楽譜を忘れるなんて珍しいわね、と肉親にもからかわれた後ふたりで家を出る。
レッスン頑張っておいで、と声を掛けられて棗は笑顔でうなずくと友人に家を出たことをメールした。
学校までは20分ほどで着ける。
だが忘れもにによる時間のロスで見学は30分少々しかできないだろう。
別に目当ての人がいるわけではないので時間が短くなるのはかまわなかったが、約束をした友人に申し訳なかった。
メールの早打ちが特技、と豪語していた友人は1分も経たないうちに返信をよこした。
もうすぐ着くよ、というメールに棗は信号の待ち時間を利用して、わかった。先に見てていいからね、と返事をした。
音楽や自然の風景写真くらいにしか興味がなかった棗にとって、テニスは全くの範囲外。
だが1年の頃から仲の良かった友人が聞かせてくれるテニスの話は楽しかったし、わくわくした。
何度か彼女の応援にも駆けつけ、彼女の勝利や敗北を一緒に味わった。
だから怪我でテニスができなくなり泣いていた友人に、今度は自分が新たな世界を教えたくて合唱部に誘ったのだ。
いろいろと思い出しながら歩くとやっと正門が見えて、そしてテニスコートにつく前に目を丸くした。
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