□オペラの筋書き
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ーーーえ、…なにこれ?

目の前の光景を、なんと表せば良かったのだろう。
人だかり?群衆?人の群れ?
驚くほどの人数がテニスコートに詰めかけ、近づけもしない。
キャーキャーと悲鳴に近い声を上げる女子たちは怖くて近づけないが、雄々しい声を上げる男子たちにも近づけない。
全校生徒が集まっているのではないかと思うほどの人数は、誰もがテニスコートに釘付けだった。


「…えぇ〜?」


春間中のテニス部は男女ともに目立った成績を残したことがない。
強豪といえるわけもなければ弱小といえるほどでもない、地区大会は進めても都大会1回戦をようやく突破できるかどうかほどの強さ。
いつもならば見学者などひとりもいないというのに、立海中が来ただけでこうも変わった様子に棗は肩を落とす。
厚い人の壁でテニスコートの中の人など見えないため、棗はしかたなしに友人に連絡を付けた。
連絡はすぐについて、よくよく聞けば棗が忘れ物を取りに行かなければまだテニスコートには近づけたのだという。
その他大勢の生徒は立海を見に行くために正門で出迎えるように、彼らが来るのを待ちわびていたらしい。
ただ想像以上にテニス部のメンバーが格好良かったらしく、いつの間にか分厚い壁になってしまったらしい。
友人はロックコンサート並みだという人の押し詰めっぷりに飽き飽きして、プレーが始まる前に抜け出てしまったらしい。
そういわれてみれば服も少しよれているし、髪の毛もぐしゃぐしゃだ。


「棗!」

「あ、良かった、会えた」

「あはは、会えなくなるかと思ったよ私も。立海中が来てくれてるからってこれはないよね」


呆れるように眉を寄せた友人は、せっかく強いテニスプレーヤーを間近で見られるチャンスなのに、と呟く。
それは半分以上の生徒がテニス目当てなのではなく、格好いいテニス部員たちを目当てにしていることを悟っているが故の苦言だった。
化粧を塗りたくった女子たちから強い香水のにおいがして、ふたりはため息をつくとまずはにおいの届かない風上に移動した。
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