□駆け出そう
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春間中を訪れたあと、仁王は必死になにかを思い出す暇を与えまいとするようにテニスに没頭するようになった。
女たちが近づいてきても以前のように流されることもなく、ただテニスだけをしていた。
テニスコートが使えない時はストリートテニスを利用したり、どうしてもという時はクラスの男子を誘ってバスケやサッカーにいそしむ日々だった。
まるで身体を動かしていないと死んでしまうと言わんばかりの状態に、周囲は新たな心配を募らせた。
だが幸村は仁王がポツリともらした、全部空っぽにしたいんじゃ、という言葉を信じていた。
想い人を諦めるため、仁王が悩んで出した結果なのかも知れない。
心配する柳生たちにそう伝えると、彼らは沈黙した。
春間中ではギャラリーの多さに身動きがとれず、ひとりひとりの顔を確認することも難しかった。
そんな中で仁王は限界を感じたのかも知れない。


「仁王君らしくないですね…」

「それだけ…本気だったんじゃないかな?」


幸村の、苦しそうな声に誰もが口を閉ざし、何もできなかったことへの後悔を募らせた。


***
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