□愛の歌
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「ーーーぁ、」

「やっと…やっと、逢えたのう」


ずっと、ずうっと心を焦がし続けていた人が目の前にいた。
求め続けていた人が目の前に存在する。
その瞳に自分だけを映している。


「…う、…そ……っ」

「本物じゃ。…触ってみんしゃい」


ダンスを誘うように差し出された手。
長い指がかすかに震えているように見えるのは、棗の気のせいなのだろうか。
大きなてのひらは骨張っており、ずいぶんと筋肉がついていた。
この手が拍手をくれた手なのだと思うと涙がこみ上げてくる。
棗が未だ驚愕と感動に固まっていると、仁王はもう一歩近づいてまた同じように手をさしのべる。
目蓋の裏という、絶対に触れることのできない場所にいたはずの彼が自分に向かって微笑み、手をさしのべている。
頭の芯が痺れてしまい、何も考えられない。
けれど、全身が彼を求めていた。

ゆっくりと棗の手が持ち上がり、力の入っていない手が仁王の手に触れる。
触れた、と頭が仁王のてのひらの感触を彼女に伝えただけで、棗はこらえていた涙を一粒こぼしてしまった。
薄い皮膚の下を流れる血液とあたたかな熱。
一生手に入らないと思っていた、その感覚。
それが今、確かにここにある。


「…あぁ、」


その恍惚に近いため息はどちらのものだっただろう。
女らしく柔らかい棗のてのひらと違って、仁王のてのひらはテニスでできた肉刺のせいで皮膚が硬くなっていた。
けれどそれすらも男女の差を表す、セクシャルな部分に思えてふたりは鼓動を早める。
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