□磨かれ始めた子どもたち
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新一は蘭に自分の傘を貸した後、小さくため息をつきながら本屋の軒下で土砂降りの雨をにらんだ。
だがどれだけ鋭くにらんでも雨はやむどころか激しさを増していく。
母親と約束がある蘭に傘を貸すことには何のためらいも無かったのだが、この雨の中を帰るのは少々ためらいもする。
あーぁ、と小さく肩をすくめるとふと後ろから声がかかった。


「工藤さん、どうしたんですか?こんなところで」


声をかけてきたのは、新一と蘭の幼なじみでひとつ年下の棗だった。
新一と蘭が幼なじみなのは新一の母親と蘭の両親が知り合いだったからだが、新一と棗が知り合ったのは新一の父親と棗の父親が仲がよかったからである。
彼らの父親は同じ大学だったらしく、そこで同じサークルに所属していたことがきっかけらしい。
棗の家も新一の家とわりと近くにあり、父親を見習って本を読む棗と新一が仲良くなったのだ。
小学校も中学校も同じだが、一年というブランクは意外と大きく3人の間に横たわり、中学でも互いの友達が居るせいか別段と仲良くはしていなかった。
学校では3人とも見かければ声をかける程度、というスタイルでいたのだ。
新一と蘭は同じ歳だったために今でも仲良くしているのだが、棗とは少しずつ距離があき始めたのだ。
一応ほかの部分では交流があるものの、一日の大部分を占める学校という位置は大きかった。

だから、なのだろうか。
小学校の頃は"新一お兄ちゃん"と自分のことを呼んでいた幼なじみが、学校で会う度に"工藤さん"と呼びかけてくる。
いつの間にかしっかりと身についた敬語で話し、しっかりと目上を敬う。
だがどこかで距離を置かれたような感覚に襲われた新一は昔と同じように出来るだけ軽口に聞こえるように言葉を選んだ。


「見りゃわかんだろ?雨宿りだよ、雨宿り」

「そのわりには制服が濡れてませんけど…ここまでどうやって来たんですか?」

「あー…。走って?」

「いくらサッカー部のスーパースターでも、ここまで濡れずに走り抜けるなんて無理だと思いますよ?音速の壁でも破らない限り」

「…実はオレ、音速の壁を超えられるんだ。すげーだろ。でも秘密な。バレるとめんどうだから」


棗は自分の傘を折りたたんで新一と同じ軒下に入る。
狭くもないが広くもないそこは、あまり距離をあけすぎると雨に濡れるだろう。
新一は棗が雨に濡れないように少し奥へ詰めた。
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