SS

□みなみけ
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とある晴れた日曜日の朝。
もう一つの南家でのちょっとした出来事だった。



「トウマ、何でこんなに起きるのが遅いんだ。せっかく作ったうどんが伸びちまっただろ」

「別に日曜なんだから良いだろ? てか朝から何でうどん…?」


次男であるナツキは妹、トウマに見下ろすように立ち塞がった。どうやら朝ご飯にうどんを作ったようだが、トウマが起きるのが遅かった為伸びてしまったようだ。


「とりあえずさっさと食え。洗い物が片付かん」

「はいはい」


トウマは渋々腰を下ろして机に置かれたうどんに手をつける。


「………これ、伸びてんだけど。後冷めてるし」

「当たり前だろ、3時間前に作ったうどんなんだから」


トウマが時計に目をやると、現在時刻は11時。3時間前に作られたうどんなど食べる気の起きなかったトウマは箸を置き、台所へ移動する。


「トウマ、うどんが伸びちまうだろ」

「もう伸びてるよ」


言いながらトウマは棚からカップラーメンを取り出し、封を開ける。


「トウマ、そんな物食うよりうどん食え。うどんが冷めちまうだろうが」

「もう冷めてるよ」





【2】





次の日。
とある月曜日の朝だった。皆それぞれが学校へと学びに行く。



「ナツキ」

「ウス、保坂先輩」


南ナツキはいつものように学校へ登校する。そしていつものように昼休み、バレー部の先輩に絡まれた。


「オレの作った弁当、食べてくれないか?」

「……オレ今日お腹痛いんで、食えないッス」

「お腹痛いのに、おにぎり食べちゃダメじゃないか」

「そうでした」

「お腹痛いのに、ジュース飲んじゃダメじゃないか」

「そうでした。そういや保坂先輩って料理得意でしたよね。何か保温性の高い料理って知らないッスか?」


ナツキはおにぎりを頬張りながら、保坂に質問を振った。


「何故ナツキが料理を?」

「飯作んないといけないんで(家族に)」

「成る程、食べさせてあげなければならない相手がいると。まるでこのオレと一緒だな……任せろ、保温性の高い料理を探してきてやろう!」


何かとんでもない勘違いをしながら保坂はナツキのいる教室を走り去った。ナツキはお茶を飲みながら、それを見送った。





【3】





「って事で、最近保温性の高い料理ってのを求めてるんス」


ナツキは保坂をほったらかして、もう一つの南の長女、南ハルカに頼る事にした。偶然同じ学校の為、帰りにお邪魔する事がとても楽だったらしい。


「保温性の高い料理ね……鍋なんて保温性が高いと思うけれど?」

「鍋ッスか。それ、3時間くらい放置しても温かいッスか?」

「3時間はちょっと……1時間くらいなら大丈夫だと思うけれど。でもいきなりどうして?」

「実はトウマが最近飯食うタイミングが遅くて。昨日なんて3時間前に作ったうどんを朝飯にしやがるし」

「うどんならトウマが食べる直前に茹でれば良いでしょう…」

「一緒に茹でないと面倒なんで」


この子本当に妹の事想ってるの?、と疑いたくなりそうな勢いでハルカはため息をついた。


「とりあえず鍋やってみます。ちなみにどの鍋が保温性高いッスか?」

「ホーロー鍋、とか?」





【4】





「遅い」


ナツキは帰宅するなり、ハルカから教わったホーロー鍋を早速調理してみた。そして出来上がったのは良いが、やはりトウマがなかなか帰ってこない。


「ホーロー鍋が、もうホーロー鍋が!」

「温めれば、ホーロー鍋が」





うどんはともかく、結局は温めれば良い事に気付かないナツキだった。

今日も二つの南家は平和だ。





【5】





「そして南ハルカに鍋を作ってやるわけだ。するとどうだ、温かい鍋が出来上がったぞ。きっと愛情たっぷりだ、保温性も抜群に違いない」


一人妄想を続ける保坂を、マキとアツコと速水は傍観していた。


「黙っていればかっこいいのに……」

「面白そうだね〜」

「きもちわるい……」





end
 

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