◆短編小説◆
□オマエは 俺の おまもり
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(や…べ…!)
思った時はすでに遅く、ザックスは体の上に重く圧し掛かる黒い影に拘束された。
明るかったはずのリビングが真っ暗にしか見えない。
なのに自分の上に影がいる事がハッキリと分かった。
動こうにも指先一つ動かず、声も出ない。
嫌な汗が額を伝い、その黒い影がニヤリと笑ったような気がして背中に悪寒が走った。
時間が経てば解放される。
それは分かっている事だがこの瞬間が死ぬほど気味が悪いのだ。
なんとか真っ暗な視界の中でクラウドを捉えた。
が、体は相変わらずどこも動かないので彼に助けを求める事は出来なかった。
その時。
「う…ん…」
寝ぼけたクラウドがザックスの方に寝返りを打った。
反動でグルンと回って来た手がザックスのそれに触れる。
その瞬間、パシン!というラップ音とともに拘束が解かれた。
真っ暗だった視界がいつものリビングに戻り、やはり灯りは煌々とついたまま。
「…え?」
ザックスは半信半疑だった。
金縛りがこんなに早く終わった事など今まで一度もない。
体を起こし部屋の中を見回す。
不思議な事に霊の気配はどこからも感じなかった。
横で寝っ転がっているルームメイトに視線を落とす。
(オマエ…、アースってか)
思わず口元が綻んだ。
同じ職場だとしても立場も性格も何もかも正反対な彼に惹かれた理由が分かった気がした。
そしてザックスはキングサイズのベッドを買うに至る。
日常的にクラウドと眠るために。
*****
「だいたいさ、寝室狭いのになんでこんなでっかいベッド買ったんだよ。部屋ん中動けないじゃんか」
「…別に寝室は寝るだけの部屋だもんいいだろ。ほとんどリビングで過ごすんだし」
「百歩譲って、毎日ザックスの部屋で寝る。そしたら俺のベッド全然使ってなくてもったいないじゃん。どうすんの?」
「あ、じゃあベッド売っ払ってクラウドの部屋は書斎にしようぜ!」
「もう!そういう事言ってんじゃないよ!」
二人はザックスの購入したベッドの上で言い争っていた。
クラウドには別に霊感がある訳ではないのだろうと思う。
でもあの日触れられた瞬間に暗い影から解放されて光の中に呼び戻された感覚が忘れられない。
心地いい光の触手。
クラウドから感じるのはそんなイメージだ。
だからいつも傍で眠りたいんだよ。
ついつい触ってしまう。
悪い何かが俺に寄ってこないように。
黒い闇に飲み込まれないように。
絶対離さない。
だってオマエは俺だけのお守りだから。
fin.