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□かりそめの時を
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「おいアイジ、少しは話せよ」
童顔の男に俺は促されて、視線をグラスから外す。――少し確かめてみたくなった。だから、
「声、」
「は?」
「おまえ、声が綺麗だな」

鎌をかけたと言ってもいいかもしれない。相手が息を止めるように、戸惑ったのを見て、俺は確信した。――――こいつは俺の知っている、ララという女だ。それから意図的に少し笑ってみせて、

「まるで、唄っているみたいだ」

追い討ちをかけるように、言葉を放った。

俺はミサの反応に満足して、またワインに視線を戻す。様子を探るようにワインから目線を外してミサを見ても、相手は全く気付くこともないくらい狼狽しているようだった。そんな姿を見て、ふと罪悪感とも呼べるような悲しさが俺の中に積もった気がした。声も姿もなんら変化もないのに、3年前とは全く印象が、表情が違うと気付いたから。
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