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□かりそめの時を
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俺は昔から、顔の表情が変わるのは、故意的なものだと思っていた。幼い頃、周りの連中はどうしてこうもころころと表情が変わるのか、不思議だった。痛いときには顔を歪めて、楽しいときは笑みを顔に貼り付ける。それを見て、義務のようなものなのだと認識したような気がする。

演技だと、思っていたのだ。不意にでるのはただの癖で。いつの間にか大人の真似をするうちに、無意識に出来るようになるものなのだろう、と。

楽しいと思う場面では、顔の筋肉を緩めて、口元を上げれば良い。―――偽善者だらけの社会。そんな風に俺は意識して育った。


――そう思っていたのに。
俺はあいつを見た瞬間、思わず笑みを浮かべてしまったのが自分でもわかった。

幼い頃からの努力が幸をそうして無意識に出たのだろうと思ったけれど。
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