short
□たゆたう、
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欲しいものは欲しいし、好きなものはすきだから。
例えば、私が恋をしたなら、それをすべて呑み込んでしまいたくなるんだと、そう思ってた。
だけど。
彼は私の前をゆらゆら漂っていて。
実体がなくって、蜃気楼みたく、幻想みたい…。
彼が欲しくて欲しくて。
愛おしすぎると、途端に幻みたく、私の目に映る。愛おしすぎる。彼には決して触れられない。彼には決して触れてはいけない。
神聖な、私とはかけ離れた、愛おしいひと。
手を伸ばしても、届かない。掴めない。するりと、私をかわすように、ゆらゆらと。
砂だらけの、乾燥した砂漠の、オアシスみたいな。 私の喉はからからで、そこを、私は目指して。
どうしても喉を潤したい。
その水で、私の中を満たしてしまいたい。
愛おしい彼。
だけど、私はいつまで経っても辿り着けなくて。歩いても歩いても、私を嘲笑うみたく、ゆらゆらと揺れているだけで。
決して私は触れられない。
辿り着くことができない。
だって彼は、蜃気楼だから。
彼は、そんなひと。