long

□かりそめの時を
2ページ/40ページ


―――ミサ、というらしい。たまたま誘われて、断り切れなかった女たちとの飲み会だかに、来た日だった。

俺はこの女を知っていた。数年前には、よく見た女だ。あまり変化した様子もなかったからか、すぐにわかった。ただ記憶していた名前とは、違っていた。――――ララ。あの男は、恐らくこの女の彼氏であろう男は、確かにそう呼んでいた。しかし俺がいつものスターバックスに通っているのにも関わらず、3年程前からは、その姿を見ることはなかった。それと同時に女の姿も見ることはなくなっていて。

―――別人なのだろうか。しかし、良く似ているし、声質も同じだと言っていい、と俺は思った。双子の可能性もあるかもしれないと思ったが、可能性はかぎりなく低いだろう。双子だってそういるものではない。

では、何故こんなところにこの女がいるのだろうか。こんな男と知り合うためにあるような場に。――あの男とは別れたのか?…スターバックスで見かけなくなったのは、そのせいかもしれない。


ワインの入ったグラスを揺らしながら、そんな思考を巡らせていた。

「えーと、ミサちゃんだよね?」

不意に会社の同僚である男が、目の前の女に話かけるのに気付いたけど、俺は気にせずワインを見つめる。赤いワインを見てると落ちつく気がした。

「ごめんね。こいつ、無愛想で」
「、いいえ。全然気にしてないんで」

でも女の、――ミサの声を改めて聞いた瞬間、懐かしさを何故だか強く感じる。
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ