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□アルカイック
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-棗side-



例えば、眩しさに目を細めるように、人にぶつかったなら謝るように、僕は彼女に対して当たり前に、多少なりとも後ろめたさを感じている。ただ、後ろめたさを感じてはいるけれど、悪いことをしているとは思っていない。――…矛盾しているだろうか。

もちろん僕は浮気をしているわけでもなく、ましてや不倫なんかとんでもない。むしろ彼女が愛しくてたまらないほどだ。でもこの話題になるといつもマサキは、『―――タチが悪いよ、本当に』渋い顔でそう言う。束縛以前の問題だ、とも。

そんなこと言われなくとも僕自身わかっていることだから、マサキを睨み付けて、『煩いよ』店をさっさと出て来た。多分ひとり残されたマサキは平然とジュースのおかわりでもしているだろう。僕はそんな飄々とした幼なじみを想像する。

外に出ると、うんざりした。やっぱり、天気が良すぎる日は好きじゃない、と思う。無遠慮に日差しが僕に突き刺さって、気分が悪くなる。もしかして、普段引きこもりの生活をしてるから太陽が苦手なのだろうか、と考えて少し可笑しくなった。まるで吸血鬼だ。

足早に僕は家へと向かう。真っ直ぐに。日差しから逃げるためではなくて、僕を待っている人のために。ブルーベリーが入ったスーパーの袋をぶら下げて。
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