長兄の頬がだらしなく揺るまっている。約一年前、脅迫か誘導尋問の様な感じで長年想い続けた凜さんと付き合いだしたもう一人の兄――静雄兄さんは、その次の月には籍も入れたと云う直情径行そのままに、運良く休暇が重なった自分や麗司兄さんを実家に呼び出すと、照れ臭そうにリビングの椅子に座らせた。下腹部が膨れた凜さんを。

「………おめでとう、兄さん」
「あ、あぁ、さんきゅ」

芽生えた新たな命を大事そうに触れ、にこりと自分からの祝辞に微笑む凜さんは本当に綺麗になった。恋をすると変わると云うけれど、凜さんの場合は可愛さに艶が増した。まだ何処となく少女の様な雰囲気を残すものの、静雄兄さんや二人の子供が宿った腹部を見つめる眼差しは母であり一人の女。たった一年で変われば変わるんだな。やや失礼な驚きを感じつつ、隣に座る麗司兄さんに視線を寄越せば少年の様に頬を緩め、満面の笑顔で凜さん……ではなく、静雄兄さんに親指を掲げていた。

「おめでとう、静雄。有難う、凜。可愛い義妹だけでなく可愛い姪まで俺が生きている内に見せてくれるなんて、お前は本当に兄孝行だよな!」
「……なんか、素直に受け取れねぇんだけど」
「えへへ、有難う。麗司兄さん」
「どっち似なんだろうな。静雄に似ても凜に似ても可愛い子なのは変わんねぇけど、何処ぞの野郎に嫁に出す悲しみを味わうなら甥がいいんだよなぁ……。俺的には姪がいいけど」
「――よ、嫁ぇ!!?」
「麗司兄さん、跳躍し過ぎ。それって何年後の話だと思ってるの」

真っ赤な顔で照れる静雄兄さんに、ほんわかと照れる凜さん。なんとも可愛らしい夫婦だろうか。顔に出やすいし。後数ヵ月後には生まれてくる姪か甥に思考を飛ばした兄さんはそんな二人にどちらがいい?と聞きつつも己の願望を口にし、それよりも遥かに遠い未来、それも姪限定の悲痛にその秀麗な表情を歪ませれば、静雄兄さんも大袈裟な程反応を返す。そして折原さんを前にした様に眉間に皺を寄せ、蟀谷に青筋を浮かばせ奥歯を噛み鳴らした。

「誰が嫁になんて出すか!!」
「えー。でも、女の子なら何時かは好きな人と結婚するんだよ?私と静雄君の子供なら、絶対変な人を連れてこないよ!」
「いや、凜に似たら蚤蟲みたいな野郎に拐されるかも知れねぇだろ!?」
「そうなぁ?でも臨也は格好良いし優しいから、臨也に似た人なら私は良いかな?」
「――――ッ!!?」

世界の終わり。そんな題名が付くだろう絶望に満ちた表情で凜さんを見つめる静雄兄さん。あれだけ殺す殺す言って嫌悪している折原さんならいいって言葉は、静雄兄さんにとっては死刑宣告にも等しいだろう。がくりと項垂れ力なく床に座り込んだ静雄兄さんには同情する。苦虫を噛み潰した様な表情で曖昧に逃がした視線の麗司兄さんは乱雑に髪を掻き上げながらも、肯定の言葉を吐いた。

「俺も臨也に似た野郎が可愛い姪の彼氏や夫になるのは嫌だが、姪が惚れ込んだ野郎ならなぁ……」
「あ、兄貴まで許すのかよッ!?」
「いや、許す許さないもなくな」

絶対に味方をするだろう麗司兄さんの肯定的な言葉に静雄兄さんは悲痛の表情で噛み付くも、不自然に途切れた言葉に瞬き、一旦落ち着く様に目を伏せた麗司兄さんが再度開いた時には、笑顔を浮かべていた。――――凶悪な。

「気に入らなけりゃあ倒せばいいんだよ。可愛い姪が欲しけりゃ俺を倒せっ、てな」
「………あぁ、確かにそうだな。俺と兄貴を倒せねぇ様な餓鬼にゃ、俺の娘はやれねぇ」

もう既に姪断定で話を進めている兄二人。にやりと口角を釣り上げる姿は双子だと思わせる程、この二人の兄は似ている。と云うか、この二人に勝てる男など、この世界に何人居るだろうか。呆れた眼差しで見上げる自分に凜さんは相変わらずの感じで、微笑んだ。

「笑ってる静雄君と麗司兄さんって格好良いよね!」

一年前までは恐がっていたのにね。恋は盲目と云うか、触ってみる?と隣に移動して来た凜さんに促され触った腹部に、何となく女の子だろうなと頭の中の誰かが呟いた。






裏を書いた勢いで妊娠ネタ。男兄弟だから絶対に兄弟のお嫁さんや姪は可愛がるだろうなぁ。






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