from Ciel

□暗い部屋に一人(完結)
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「それでは、ごゆっくりおやすみください。」


深々と頭を下げて、僕の寝室から出て行くセバスチャン。
本当は怖かった。今夜は側にいてほしかった。
特別怖いものを見たわけでも、嫌な思いをしたわけでもない。でも、たまに思い出してしまう。身震いするような恐ろしい光景を。僕を待つ闇という未来のことを考えてしまう。

あの日。セバスチャンと出会った日。
僕は僕を侮辱したクズどもを、踏みつけて歩いた。わざとだった。踏まなければいけないと思った。
これから僕が歩くのは、この道だと覚悟を決めた。だから悪魔のしつこい確認にも、堂々と言って返せた。

最後の瞬間、僕に何が起きたのか覚えていない。今でもたまに迷ってしまう。もしかしたら僕は、あのときにもう殺されていたんじゃないかと、そう思わずにはいられなくなるぐらいに、不安と孤独を感じるときがある。

暗闇も、遠近感も、質感も、何もかも鮮明に覚えているのに、顔の見えない男が振り上げた、剣を持った大きな拳。あれが僕の胸まで降りたのか、その前にセバスチャンが現れたのか、僕には思い出せない。
ただ僕は叫んでいた。今までにないぐらいに大きな声で叫んだあのときの喉の熱さを覚えてる。だから思ってしまう。
本当は僕は、あのとき刺されて死んでしまったんじゃないかと。ではここにいる僕はなんなんだろう。復讐のために悪魔の力を得て蘇った亡霊だろうか。

僕に生きる意味があるのか?こんな問いかけは、絶対に口にはしない。でも思ってしまう。
死んだ者のためにできることなんて何1つない。ただ僕の怒りが収まらなくて、両親を殺して家を焼き、僕にあんな生活を強いた奴らに僕と同じ屈辱を与えたいだけなんだ。

憎しみは憎しみしか生まない。そんなくだらないことわざは、言われるまでもない。
僕が行う復讐によって、僕は新たな恨みを買うだろう。そんな輪廻があることぐらい、もっと小さいときから知っていた。

だから僕は、悪魔の餌食になる。
復讐を果たして新たな恨みを生んだ僕は、悪魔に殺されて魂までも食べられて、天に還ることもできずに消えてしまうんだ。
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