from Other
□いたわり(完結)
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「まだ髪が濡れてますよ。」
「疲れた。」
お風呂上がりのシエルの肌は、全体的に薄くピンク色に染まっていた。まだ髪を拭ききっていないというのに、ベッドに横になってしまった。
「移動が多かったので無理もありませんが…明日はせっかくの特別講義、お休みするわけにもいきませんし。」
「大学のえらい先生が来るんだろう。お前が丁重にもてなせば満足して帰るだろう。」
「お勉強なさらず教授をお帰ししてしまうとなれば、坊ちゃんはおさぼり伯爵になってしまいますがね。」
横になったままのシエルの髪をセバスチャンは丁寧にタオルで拭いた。
「本日はお疲れ様でございました。」
「たいして疲れてない。」
「そうですか。」
にっこりと微笑む執事の顔を、シエルはじっと見つめた。両方の目で。
すぐ近くにある頬に、そっと手を伸ばす。火照った手の甲を、ひんやりした悪魔の頬に当てる。
「お前はどうやって生まれたんだ?」
「私の人生に興味でもおありですか?」
「いや、そんなこと。」
回答をはぐらかしたのか、答えなどないのか、セバスチャンはシエルの手を取り指先にキスをした。
指輪のない親指に唇を当て、啄むように。
シエルの表情は緩んでいた。
「セバスチャン?…今夜はいつまでここにいるつもりだ?」
「そうですね…お望みとあらば坊ちゃんがおやすみになるまで、おそばにおりましょう。…さあ、そろそろお着替えを。」
柔らかいタオル地のバスローブ姿のシエルを、セバスチャンは一瞥する。着替えなければ湯冷めしてしまうだろう。
口元にある手をそっと握り、離させようとした。しかし、シエルがその手を握り返し、ぐっと引き寄せた。
「もっとこっちに来い。」
「はい。」
誘われるままに覆い被さる。横になったシエルに、セバスチャンの上半身の影が映る。