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□バスルームの執事(完結)
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予定が押している。

本来ならば、もう30分早くこうしていたはずなのに。30分ぐらい構わないと思ってしまえるかもしれないが、幼い主人を夜更かしさせるわけにはいかなかった。

「申し訳ござませんでした。私がきちんと確認をしておけば…。」

「お前が謝ったって仕方がない。結局うまく連絡が取れたんだ。問題ない。」

取引先との連絡ミスで、今日の仕事に少してこずってしまった。

「損害がなかったから、別に構わない。先方が心の広い紳士でよかったがな。」

構わないと言いながら、チクチク棘を刺す。この主人に関してはほとんど無意識にだった。
その度に、執事としては謝らなくてはいけない空気になってしまう。

自社製のウサギ型をしたピンク色のスポンジを手に、浴槽にいる主人に一歩近づく。袖を捲くり手袋をした執事が、ふと少年の首筋に目を留める。

「まだ、消えていませんねぇ。」

「何がだ?」

「私が坊ちゃんにお付けしたキスマークですよ。」

「…。」

眉を寄せ、嫌そうな顔をしながら、見えるはずのない自分の首を見ようとする主の滑稽な姿。セバスチャンは思わず短い笑みを零した。

「ご心配なさらずとも。明日には消えていますよ。」

「安心はできないな。消えたらまた付けるんだろう?」

柔らかいスポンジが白い肩を撫でて、ゆっくりと泡を乗せながら汚れを落としていく。
「さあ?」と囁いたセバスチャンは、その作業を実に楽しんでいるようだ。
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