NOVELS 1

□さよならのあと
1ページ/6ページ

― 1 ―

杉浦八千夜 16歳。神戸女学院高等部に通う長い黒髪の華奢な女の子。
趣味は、読書とクリスタルを集めること。
本田 玲 17歳。こちらは京都の私立 国志社高校二年生。
彼女もまた華奢ではあるけれど、174cmという身長や、中性的な容姿が災いして?めったに女の子として見られることがない。
PUNKBAND「CRAZY DOLL」のVocalist、RAYとしては、それでいいやと思っているから、彼女はいつも飄々としている。

そんな、なんの接点もない二人の少女が出会うのは、夏の、香川に向かうフェリーの中。陸地よりは幾分涼しい海の上だった。
八千夜は中学卒業と同時に高松へ引っ越した幼友達に会うため。
玲は、夏休みの補習を終えて、バンドのメンバーとは別行動だったが、同じ高松にあるライブハウスに出るために。

正午過ぎの晴れた空。
ジリジリと熱さを増してくる太陽をものともしないで、玲は汗もかかず、デッキのベンチで小説を読んでいる。
「あ!」
ふいに聞こえた澄んだ声に顔をあげかけた玲の手に、なにか柔らかいものが触れて目をやると、それは、真っ白なリボン。
(なんか、ファンシーなものが飛んできた)
そう思いながら眺めていたら、玲の前に人影ができて、その人影は人間の言葉を話した。
「ごめんなさい。」
玲は今度こそ顔を上げて影の主を見た。
「これ、君の?」
「はい。」
            (あ、かわいいー。いくつだろ。下っぽいな。)
            にこっと笑う彼女に、玲は「飛ばないように、ちゃんとくくっときなね。」
と言って白いリボンを渡した。
「ありがとう。そうします。」
少女が答えると、ボォと短い汽笛が鳴って、フェリーが港に着くことを知らせた。

港の待合室に、人影はまばらだったが、その数人の中に一際その場に不釣り合いな目立つ娘がいた。
金色に近い短い髪をスプレーで固めて、年ごろにおよそ似合わない派手な化粧をしている。
服装も奇抜だ。
黒いタンクトップの上に、忍者が身につけていそうな網のTシャツを重ね着して、太いチェーンをネックレス代わりに首に巻いている。スカートはビニールのような素材で、短いそのスカートの下には網タイツ。そして、安全靴。
大人がちらちらと彼女を盗み見ているのには、お構いなくフェリーから降りてくる人の列をしきりに気にしている。
列の中の一人に目を止めると、娘は大声で叫んだ。
「やちー!」
呼ばれた少女は、なかなか進まない列をもどかしく感じながら小さく手を振る。
やっと側に辿り着くと、二人は手を取り合って、ぴょんぴょんと跳ねながら、再会を喜びあう。
「八千夜、久しぶりー!元気やった?」
「うん!ね、夏樹、どしたの?そのカッコ。」
「あー今ね、PUNKにはまってんの!どうよ、カッコいい?」
「うん、なんか大人っぽいね・・・ねぇ、夏樹、今の彼氏がパンクの人?」
「バレた?」

そんな会話を交わす二人の横を、およそPUNKしていない、ジーンズに綿シャツといった出で立ちで玲が通り過ぎる。
また、会えるかもしれないという、微かなときめきと期待を抱きながら。
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ