NOVELS LONG
□Call my name 1
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〈 ハルの憂鬱 〉
薄暗がりの中、手に持った煙草の煙越しに彼女の背中を見つめてた。
彼女が見てるステージに今、私は立っていない。
だから、見なくていいよ。
今日の対バンにすら嫉妬を覚える。
さんざん彼女を傷つけといて、まだ恋人の名乗りすら挙げないで、私以外の何かを見てると腹を立てる。
いい性格してるな。
反省はしてみるのに抑えきれない。
で、なんとはなしに寄ってくる女の子となし崩しに関係を始めて機会を潰す。
次こそ彼女は去ってってしまうんじゃないかと怯えながら。
今じゃ、彼女に去られることが内心、何より怖いくせに・・・。
歌うと言うより吠えるような男のボーカルが話し始めると、彼女は煙草に火を点けて視線に気付きこちらに振り返った。
「あ、びっくりした。いつからいたん?」
柔らかな笑顔。
「さっきから。」
彼女の一つ隣の席にうちのギタリストが座ってる。
彼女は、まだそんなには多くないうちのファンの中でもちょっと特別だ。
小学5年生でギターを弾いてる彼女の息子は、うちのバンド内のマスコット的存在だし、その息子をライブに連れ出す母親である游ちゃんもまた、バンドの全員が気に入ってる。