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□正午と君と僕の髪
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「雲雀さん、おはようございます。」

並盛中学屋上…


重い瞼をこじ開け、覚醒しきる迄のその間、ただぼんやりと青い空を眺めていた雲雀。

高い位置に昇った太陽が瞳を焼く。

その眩しさから瞳を細めた時だった。不意に顔に影が落ちたと思ったら、頭上から聞こえる聞き覚えのある声。

今までは、その名を呼ぶことにさえ怯えていた声も慣れたのか震えることなく真っ直ぐ呼んでくれる。

その響きのなんと甘美な事か…。

次いで、ヒョコリと空を背景に少年の愛らしい笑顔がこちらを覗きこんできた。

「て、もう、おはよう・・じゃないですね。」

どうしようもなく、頬を掻いている仕草が可愛い。

確かにこの可愛らしい少年が言うように空の太陽は正午を告げるように真上に来ていた。どうりで気温が僅かに上がってきているわけだ。

校舎内の巡回も終わり、元々出る気なんてない詰まらない授業から逃れるために屋上で浅い眠りについていたのだが、いつの間にかこのような時間になっていたらしい。迂闊だったと雲雀は思う。

「うん。こんにちは、沢田。」

寝転がったままの姿勢で軽く微笑めば、ぎこちなく少年…綱吉がその隣へ腰を下ろす。

そんな彼の頬は朱に染まっており、その赤が引くまでは口を開こうとしなかった。

沈黙を埋めるのは飛行機が空を裂いて進む音、小鳥の囀りに、各部活動の掛け合い。

穏やかに流れる時間の中でこの沈黙さえも今は心地よいなんて考える

「良い天気ですね…雲雀さん。昼寝したくなるのも分かりますもん」

「……だからって、君はサボらないこと」

「わ、分かってますよぉ」

暫く時間を置いて話し始めたのは綱吉から。
冗談を酌み交わしながら、上体を起こした雲雀。その動作に合わせて揺れる艶やかな黒髪…目に掛かるそれを煩わしげに掻き上げる動作に熱い視線が送られた。

「何。」

「え?!ぁ、そのー、髪…綺麗だな…と」

視線をその方向へ向ければバチッという音が似合う程綺麗に交わった。

優しい微笑みに綱吉は頬の温度が上がったのを悟る。

「そう?………触ってみる?」

「へ?………………良いんですか?」

「どうぞ?」

綱吉の方へ少し頭を傾ければ…

「うわ…サラサラ」

その言葉に甘えて、綱吉が雲雀の髪に手を伸ばす。

向き直った綱吉は何故か畏まって正座に座り直していた。

(髪一つ触るのに何も改まる必要なんてないのにね…)

髪を梳かれる感触を少し楽しむ。相手はというと素直に触れた感想を述べながら、今だに手を止めようとしない。

「何ならもっと良く見せて上げる」

そんな彼の細い手首を掴み、浮かべたのはニヤリと口端だけが吊り上がる性質の悪い笑み。

「ひば…?」

突然の事に思考が着いていけず綱吉は疑問符を浮かべながら何事かを問うように雲雀を見詰めていた。
呼んだ名は最後まで紡がれる事はなく、傾いていく体制と近付く端正な顔…呼ばれた名前に効力さえ掻き消されて消えていた。

「綱吉……」

サラリ…風が髪を掠う音に思わず閉じていた瞳を開ける。背には温いコンクリートの感触。眼前には光りを受けて更に艶やかに輝く世界にいる不敵に微笑んだ雲雀…

既に息をも交わる距離…
頬に髪が触れたのが分かればそっとそれに助けを求めるように視線を落とした……その時突然綱吉が声を上げた。

「ぁ、雲雀さん!!枝毛ありますよ!ほら」

良いムードはこの一言で破られた。

思わず固まる雲雀。動きを失った代わりを担う様に瞬きだけは世話しなく続けられながらじっと綱吉を凝視する。

「…………綱吉。君、咬み殺して欲しいんだね」

「えぇぇ!!?なななんでですか!」

漸く口を開いたかと思えば口から出たのは物騒な
言葉だった。

それに反して穏やかな雰囲気が二人を包んでいることは、ゆったりと流れる雲と青い空だけが知っていた。

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