長編

□日暮らし
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A(※オリキャラ注意)


きっかけはリボーンの置き手紙

「オレが手配した臨時家庭教師のところへ行けよ。」

そして、書き記されていた地図をもとに迷いながらにして目的の場所にたどり着く。そこには立派な作りの日本家屋が。外見だけで判断してもかなり広い敷地と屋敷だ。中庭はやはり日本庭園の様に四季を感じる草木が地に根を張っているのだろか…。そんな事を考えていればそこから綱吉の見知った人物が姿を現した。

「僕の生徒」
なんて、その切れ長の目を細めて紡ぐのは雲雀恭弥。


まさにこの人こそが臨時家庭教師なのだ。

その彼に半ば強引に一つの部屋に通され、今もその部屋の畳の床に座っている。余り嗅いだことのない畳の若草の臭いが鼻を擽る。雲雀は庭が一望出来る廊下側の襖の近くに腰を下ろし、ただ静かに自分の庭を眺めている。確かに手入れが行き届いていて美しい庭だった。今は入梅間近。紫陽花が庭を鮮やかな青やピンクや紫といった色で飾っている。綱吉は反対側の壁に正座しながら雲雀を視界に入れつつ自分もその美しい景色に見惚れていた。しかしそれは、景色だけではなく庭を眺める雲雀の横顔にも同様にだ。

(雲雀さん…て、やっぱり綺麗な顔してる。庭も凄いけど雲雀さんの方が…)

「正座なんかして、もっと楽にすれば良いじゃない。」

不意に声をかけられれば
ビクリと跳ねる綱吉の肩。今しがた思考のほとんどを占めていた相手に声をかけられて同様を隠せないでいた。

「はははは、はい」
(な、なんでこんなどもっちゃってんの??!俺!!)
どもった返事にすかさずに突っ込みをいれてしまう自分自身。それにうなだれるよりも、今は雲雀の事を注意しなければならなかった。今まであまり崩しもしてなかった表情に変化があったからだ。それも極僅かな…こう眉がピクリと動いた程度。慌てて綱吉が口を開こうとするがそれを雲雀の言葉が遮った

(ヒィィ、か、咬み殺されるぅ!!!)

「まだ僕の事が恐いかい?」

自分が思っていたものと違う優しい声音。
綱吉の白黒させた瞳と紫陽花の色を背に少しばかり悲しげに細められた雲雀の瞳があい暫く沈黙が流れた。その間綱吉はその答えを出せずにいた。意を決して答えをだそうとした時だった。

「雲雀の坊ちゃん、いらっしゃるかい?」

と、突然どちらのものでもない声が沈黙を解いた。
大人の…しかも年配の声だ。掠れがかっているようで不思議と安心を覚える声。

「あぁ、梅木さん。こんにちは。」

姿が見えぬ相手にそう応えれば暫くして現れた声にあう初老の男性。

「こちらにいらっしゃったんか。まぁ、此処は庭が良く見えるさかい。」

そう言った梅木という初老の男性が来た道を振り返る。目元に丁寧に刻まれた皺が優しい雰囲気を漂わせた。その猫背気味の背に雲雀は問い掛けた
「今日はどうしたんですか?」

「庭の手入れと木の診察ですわ。すぐにでも済ませてしまいますんで…おや」

雲雀の丁寧な言葉に耳を傾ける。生徒以外に接する雲雀を見る事はほとんど無く綱吉は言葉を繋ぐ唇を丸くした瞳でじぃっと見つめた。

ふと、会話を切って梅木が綱吉に視線を送る。目元の皺が僅かに伸びる。瞳を見開いているのだ。

「珍しい。お客さんだったんかい?こりゃあ、エライべっぴんなお客さんだぁ」

(客…?ベッピン…??)
綱吉はその梅木の言葉に部屋のあちこちを見渡した。しかし、この空間にいるのは綱吉と雲雀だけ。雲雀はこの家の主なのだから客と言う立場ではない。と、なると残るは綱吉だけ…。その考えに
行き着いて再び室内を見渡す。ブンブンと左右世話しなく頭を振ったために視界が白くなる。このまま『意識失うのかな?』と、考えるとそれを許さないと、言うかの様に梅木が口を開いた。
「はは、あんたの事だよ。」
此処までして打ち消そうとした考えを言葉にされてはもはやクラクラする頭を振る必要もない。視界が揺れながら、梅木に向けて笑みを浮かべる綱吉だった。
「彼は沢田綱吉。訳有って此処で暫くの間住む事に…」

♪緑たなびく並盛の…
大無く小なく並が良い…

と、雲雀が綱吉の紹介をしているとそれを遮るかの様にどこかで聞いた覚えのある曲が流れ始めた。
「…もしもし…、うん。分かってるよ。…何?僕に命令するなんて良い度胸じゃない。まぁ、今日は僕にも非があるから許してあげるよ…。気分が良いしね」

その音楽はまさしく並中校歌。そして、それを着信音にしてるのは雲雀なのだ。ピッと、言う簡易な電子音を響かせたと思ったら次にはぴたりと雲雀の耳に宛がわれていた。話しの内容は穏やかな訳ではないがやはり綱吉がその流れに釘付けになっていたのは言うまでもない。
再びピッと、音がして綱吉は我に返る。そんな間にも梅木は植物の健康状態を調べとは肥やしをやったりと仕事に励んでいた

「沢田。ちょっと僕は用事があるから出掛けるよ。逃げずにちゃんと問題集やっておくこと。良いね?」

綱吉は素直に頷いた。



携帯片手に部屋を後にしようとする雲雀は確かに学ランを着ていた。始めから出掛ける用があったのに…待たせてしまった…。と、綱吉は突然罪悪感に駆られその黒い背中に着いていく。

その二つの背を見て、梅木が僅かに声を大にして叫ぶ。

「そいじゃ、まぁ自分も失礼するよ、坊ちゃん。花嫁修業だったら、うちのバッチャン遣ってやってくれ」


そう梅雨の独特な風が運ぶ。前を歩く黒い影は僅かに苦笑を浮かべ、後ろを着いていく小さな背の持ち主はほんのり目元を朱で染めていた。

(頬が熱いのは気温のせい…)



「じゃあ、行ってくるから。」
「行ってらっしゃい。雲雀さん。」
結局、玄関まで着いて行った綱吉はそこで雲雀を見送った。小さくなる背を見て、ふと先程の雲雀の言葉が頭を過ぎる。

『まだ僕の事が恐いかい?』

「恐くないです…。」

玄関側にも紫陽花が咲いている。綱吉の呟きをその淡い青が受け止めた。

二人の同棲生活は幕を上げたばかり…

綱吉が自分の気持ちに気付くのももう少し後のこと。
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