メイン

□Oasis
1ページ/2ページ

Oasis

「跳ね馬!マフィアの貴方に何が分かると言うのです?!」
悲痛に顔を歪め吐き捨てた言葉。弱みを見せているようでとにかく嫌だった。生温い同情なんてものには吐き気がする。クルリと踵を返しその場から離れようとする。

跳ね馬ディーノに向けた背にじっとりと嫌な汗が伝う。
(本当に吐きそうだ…)
「骸…。俺はお前の抱えてるもの全部理解出来るとは思ってない。」
その場を後にしよう、と言う意志とは裏腹に足が動かない。まるで夏の陽射しによって熱をもったコンクリートに縫い付けられてしまったように。
「だったら、構わないで下さい。僕も貴方が背負い切れるとは思ってませんから。」
冷たい骸の言葉にディーノはただ「ひでぇな…」と苦笑を浮かべる。そんなディーノを視界の隅に捉え骸は『何が酷いのか…』本当の事を言ったまでだと、特に気にせず心の中で悪態をついた。
「時々、お前の背中が酷く小さく感じてさ。このまま消えてしまわないか凄く不安になるんだ。」
「クハハ!何を言うかと思えば…。ハッ、そのまま消えてしまえたらどれだけ楽でしょうね!」

ディーノの一言を嘲笑して打ち消した。しかし、振り向き様に見たのは今にも泣き出しそうな程にまで歪められたディーノの表情。

その瞬間何か心を締め付けるモノがあった。
(これは…?)

「一体なんて顔をしてるのですか?ドン・キャバッローネともある人が」

(どうしてそんな傷ついた顔をするのですか?)

ディーノに向けて一歩踏み出す。俯く彼にもう一歩。もう手を伸ばせば掴める距離。そこで漸くディーノが顔を上げた。ディーノは骸にそっと手を伸ばす。そして引き寄せるは身長の割に華奢な体。キュッとその存在を確かめるように回した腕に力を込める。
「良かった。骸は今、此処にいるんだな。」
「………。なんだか、貴方の云いたいこと分かった気がします」

(だって今の貴方が壊れてしまいそうだったから。とても脆い硝子細工みたいだったから…)
「ずっとこうやって確認したかった。お前が蜃気楼みたいに幻じゃないことを…。」
骸はディーノの広い男の背に怖ず怖ずと腕を回す。あやすように背中を撫でれば力を込めたディーノの腕が緩んだ。
「クフフ…これでもまだ幻だと?」

貴方は僕を蜃気楼だと言った…
ならきっと僕は貴方をオアシスと例えましょう

人生に渇きを感じた僕に潤いを注してくれるそんな存在に…

貴方だったらなってくれるかもしれない僕のオアシスに

話せるかもしれない……

理解してくれるかも……

でも、もう少しだけ貴方の事を教えて下さい

まだ僕の全てを見せる自信が無いんです

幻は貴方かもしれないから…

その優しさが蜃気楼なのかもしれないから…

抱きしめた片口から覗いた景色が揺れる。夏の暑い日の事。
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ