メイン

□赤い糸
1ページ/1ページ

赤い糸

「・・・・。」

ディーノの泊まるホテルの一室・・・。
そこには日本に滞在する間の部屋主となるディーノと骸がいた。
人二人いるというのに部屋は静寂に包まれていて紙をめくる無機質な音だけが唯一この空間に音として存在していた。時計もアナログ式なためか指針の音さえ響かないのだ。
骸は急に呼び出されここにいるのだが・・・そんな彼も別にこの沈黙を気にするでもなく応接用なのだろうか・・・机を挟む形で配置されてある大き目のソファの一方に腰を下ろしては、静寂をただ唯一壊す音源の雑誌のページを捲っていた。しかし、この内容に特別興味を抱いて眺めている訳ではない。ただそこにあったから・・・。手持ち無沙汰だったため・・・とあまり気にも留めずにパラパラと開き始めたのが最初だった。

一方ディーノはというとベッド脇の一人掛けのソファに腰掛けながら小指をじっと見つめている。視力が悪いなんて聞いたことがなかったが今日の彼は眼鏡をかけており、その眼鏡越しに何の変哲もない自分の小指を凝視しているのだった。所謂伊達だろうが・・・。こういった一つの装飾品で雰囲気とはずいぶん変わるものだ・・・と、部屋に足を運び、招き入れられた時そう思った。

「はぁ・・・。」

呼び出されて何の用事もなく学校帰りの時間を過ごすことなんて何度もあった。しかし、そんな時だって一度もこんな静寂が灯ることはなかった。否・・・こんな静寂が恋しくなるほどまでに彼・・・ディーノが話を弾ませるからだ。
そのためか、この静寂は何処か歯痒い・・・というのか居心地が悪かった。

(傍にいれれば良い・・・)

(同じ空間で時間を共にすれば良い・・・・)

彼の話を聞いているだけ・・・

そんな時間なのに、こんなにも愛しいだなんて。

そう自覚した彼との時間に対する依存に言い諭すが口からは抑えきれない感情が溜息となって漏れた。

「なぁ・・・骸?」

そこで、漸くディーノの口が開いた・・。

問いかけるようにして紡がれる名前・・・

それだけでも嬉しさに心臓が跳ねた

深く深呼吸して・・・

彼の言葉を待っていた・・

・・・・なんて

相手の喜びそうな思いを必死に隠そうと煩い鼓動を無視して冷静を装った。

「なんですか・・?」

「お前・・・赤い糸とかって信じるか?」

突然先程身を委ねていたソファから立ち上がると骸の元へやってきてその隣に腰を下ろした。

そう、骸に問いかける顔は何処か真剣みを帯びていた。

「運命の赤い糸・・・とか言うものですか?」

「あぁ・・。」

骸の問いかけに一つ相槌を打つディーノ。
それが、どうやら話を促しているように見えて骸は再び口を開いた。
「先ず・・僕は運命と言うものを信じません。・・・・だから、赤い糸なんてものも信じたことなんてありませんよ。」

まっすぐなディーノの瞳を見つめることが出来ずにフイッと顔を背けた。

きっと、これが・・・・可愛らしい女性だったら・・

赤い糸なんて話題に持ち出す貴方に・・・可愛い一言を言って上げる事でしょうね。


「そっか。俺は・・・結構信じてる・・・かもな。」

喜びに満ちた顔をディーノに向ける女性のことを浮かべていた骸。そんな骸の横顔にディーノはそうポツリと呟いた。

「なぁ・・・信じてみないか?骸・・・。」

「・・・・・・・。」

和らげな問いかけに背けた顔を相手に戻す。その瞳は未だ泳いで相手には定まらなかったが・・・自分の指を目の前に掲げるともう一方の人差し指、中指を立てはさみのような形を作ればそのまま自分の小指から少し離れたところをそのはさみで断ち切った。勿論何も無いために指のはさみは空を切っただけだったがそんな骸の様子をディーノは目を見開いたまま見つめた。

「・・・とだったら・・・・・で・すよ。」

「え?」

「貴方とだったら良いですよっ!!・・・・でも。」

途切れ途切れに呟いた言葉。真っ赤に顔を染め上げる骸に聞き取れなかったディーノが声を上げると勢いで言い切った。僅かに酸欠になったのかめまいがする身体をなんとか持ちこたえて続けて口を開いた。

「でも・・・僕はこれで良いです・・。」

そう言いながら自分が先程切る真似をした・・・・もし、本当に赤い糸があると仮定するならば自分の運命の相手という人に繋がる糸が切れている部分を一方の手で摘みディーノに片手を上げるよう促した。ディーノが先程凝視していた小指を上げるのを見ればその小指の付け根に糸を巻きつけてはきゅっと結ぶような仕草。

「貴方の心の片隅に・・居れれば・・・。」

自覚してしまった怖いほどまでに貴方に依存する自分・・・・。

貴方の運命の相手なんて・・・そんなことは望まない。

だけど・・・心の片隅だけの存在位許して貰えないでしょうか?

「はぁぁぁ。お前・・本当可愛い。」

悲しげに揺らす瞳・・しかし、その言葉に赤く染まる頬。

自分の瞳を満たす骸がとても愛くるしかった。

脱力しては相手をその腕の中に閉じ込める。力が抜けたにしては引き寄せた華奢な身体を離さまいと自然に腕に力が篭った。

腕の中・・もぞもぞ苦しげに身じろぐ体。この子が仮定したのは残酷な運命・・・。どうして、最初から自分達は繋がっていると信じられないのだろうか・・・。

相手を抱きしめながらそっと先程骸が赤い糸を結びつけた小指を見つめた。
骸をそっと、腕から開放すれば自分も骸がしたように自分の小指のすぐ横を指で作ったはさみで切る真似をした。骸が先程結びつけた場所よりも少し上の部分を・・・。

「え・・?」

「俺はお前以外と繋がっているなんて考えたくないから・・・。我侭・・・ごめんな。」

「・・・馬鹿・・ですよ。貴方は・・・。物好きも程があります・・・。でも・・・・・・。」

我侭なのは僕の方・・・・


なのに、そんな自分を受け入れてくれる相手がどんなにも・・・なによりも大きな存在で・・・無性にその広い胸が恋しくなって骸は自分の方から身を委ねた。

「でも、とても嬉しいです・・・。運命に頼るのも・・・・信じるのも貴方とだったら・・・。」

「もし、運命が違ったとしても・・・俺はお前を選ぶよ。運命は決まっているけど・・・変えられないものじゃない・・・。な、そうだろ?」

二人の間には・・・確かな赤い糸がある

きっとこの思いは一生物だから・・・

「後悔・・・しませんか?」

「当たり前だろ?」

その思いに迷いは無い

赤い糸よ・・・

どうか、この先もずっと・・・この愛しい人がこの腕の中にいてくれますように・・・・


赤い糸よ・・・・

どうか、これから先遠い未来でも自分を抱きしめるこの腕がありますように・・・・。

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ