紫隻鬼愛
□おとな
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「政宗殿!」
「Ah?」
幸村の声に振り返った。
「元親殿は羊羹と団子どちらが好きでござろう?」
幸村は両方を手にして真剣な顏をしている。
いつだか元親を訪れたとき、茶請けに羊羹が出された。確かそのとき菓子の中で羊羹が一番好きだと言っていたはずだ。
「…さあな。両方買やいんじゃねぇか──お前は団子買えよ。俺は羊羹買うから」
たかが菓子で差をつけられるなどとは思わない。なのに口をついて出たのはそんな言葉だった。
「なるほど!さすがは政宗殿でござる!!」
幸村は無邪気に笑って団子を買いに行った。
「おー!よく来たな」
元親が出迎えた。
「幸村!元気にしてたか?政宗も。座敷はこっちだ」
歩きながら話す元親の言葉にちくり、と胸が痛んだ。
なぜ先に幸村の名を─…。