紫隻鬼愛

□涙
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「ぅわ…また増えたな…」

戸を開けて元親がつぶやいた。その声に小太郎は振り向いた。
「……」

しかし言葉を発することなく再び顏を下に向ける。小太郎の腕の中で仔猫がニャア、と鳴いた。

“また増えた”のは小太郎の隠れ家の住人。山奥の小屋の中は小太郎が拾ってきた犬や猫でいっぱいだ。

「何がすごいって…蛇とかまでいることだよな…」

人がいい小太郎は捨てられていたり、傷ついた動物を見ると連れて帰らずにはいられないのである。

しかも彼は野生の動物は、ちゃんと野生に帰ることができるように世話するから驚きだ。



元親は勝手に室内へ入って適当な場所に落ち着いた。小太郎はというと仔猫に餌をやるのに集中している。

「……!」

隣にいた狐が自分にも寄越せと言わんばかりに小太郎に擦りよる。小太郎はその狐にも餌を与え出した。


器用だよなぁ、と思う。元親は以前着物が破れたとき、小太郎があっさり縫ってくれたことを思い出した。

そのくせ変なところで不器用で、兜の紐を結ぶのに四苦八苦していたりする。いつぞや結んでやったら少し照れながら、礼にと団子を買ってくれた。




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