紫隻鬼愛

□膝の上
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「あのぅ…放してくれませんか」

元親はおずおずと言った。

「No、俺は放したくないから断る」
「俺の意見は無視かよ…」

うなだれた元親は、かれこれ20分ほど政宗の膝の上に座らされている。スキンシップは嫌いじゃないが、ずっと同じ体勢でいたから疲れた。しかも教室には西日が入ってきて暑い。いい加減放してほしい。

「なぁ政宗やっぱり、」

再度交渉を試みようとした元親は異変に気づいた。

「…政宗?」

うなじにかかる政宗の息が……荒い。ものすごく。具合でも悪いのか、と振り向こうとした元親の体を政宗が触りだした。

「わぁっ?」
「Honey…もうたまんねぇ…」

ハアハア言いながら胸やら腰やら太股やら、その他ありとありゆる場所を触り、あるいは揉み、撫で始めた。はい、ウザ宗様ご登場です。

「ちょっ、ストップ!政宗ェエ帰ってきて!!」
「俺はずっとここにhoneyのそばにいるぜ…?」

違う違うそういう意味じゃない。

「やだってば!」
逃げようとするもガッチリ腰を掴まれているので身じろぎするのも難しい。

嗚呼、なぜあの時「放せ」ともっと強く激しく訴えなかったのだろう。元親は過去の自分を呪った。そもそも膝に座ってしまったさらに過去の己と、こんな変態野郎と友人になっちゃったもっと過去の己を恥じ、怒鳴りつけるべきであるが、今の元親には気付く余裕などない。



「元親はいい匂いがするなぁ〜」
「嗅ぐなアァァッ!!」

ハアハアしていたくせに香りを吸い込もうとしているのか、今度はスウスウしている。要らない。やめろ。頼むから。

「マジ勘弁ー!!」
「なんか甘い味がするな〜♪」
「耳を舐めるな!ゃっ!だからって首もダメーッ!!」

腕の拘束から脱出せんと必死に身を捩る。

「…ぁ」
「っ?」
「……こすれて気持ちいい…ハアハア」

やらかしたー!!何変態を増長させてんの俺!!泣くまいと思っていたが、もう無理だった。

皆さん、元親はここまでよく堪えましたよね。頑張りましたよね。泣くのは当然ですよね。だって座ってるから奴のアレが臀部に当たってますから。硬くなってきてるのがリアルタイムでわかりますから。大きくなってるのが即時で伝わってきますから。

ぽろぽろと涙を零しながら震える仔羊。

「泣いてるhoneyもエロいなー、もっと嫌がってくれると興奮するんだけどなー」

ンフフと笑ってますキモいですドSです。あれ、こいつドMじゃなかったっけ?いいえどちらも持ち合わせているからこそ、変態の名を欲しいままにしておられるのです。

「そろそろか?Honeyももう我慢も限界に近いだろう…?」

何を言っているのでしょうね。元親はとうに我慢の限界なんて越しちゃっているというのに。精神的にだから、ウザ宗の言うところとは意味が違うのだろうが。

「元親、一緒にキモチヨクなろう?」

そんな男前且つ爽やかに微笑んでも、今現在の最低な言動は少しも緩和されない。

「もっやだぁああっ!!」

叫んだ瞬間、元親は体が浮き上がるのを感じた。



「……え?」

恐怖で閉じていた目をゆっくり開けると小太郎に抱きかかえられていた。初めての小太郎参戦。

隈取りが素敵な彼はつまり初めて“駄目 ウザ宗”にまみえるわけだが。色付き眼鏡のせいで目は見えないが、口元が引きつっているのは多分気のせいではなかろう。

「小太郎!!」

今の元親には神か仏かはたまたヒーローか、な勢いなわけでぎゅうっと抱きつかれている。とりあえず動物好きな小太郎には、小動物のように見えるらしく抱えたまま頭を撫でている。

「俺の元親を返せ!」

変態のシャウト。小太郎は佐助や慶次と違って、ウザ宗をぶっ飛ばして元親を救出したのではなく、すぐに元親を救出したのだ。動物だけでなく人間にも優しい小太郎には(たとえ変態でも)殴るなんてできなかった。だからウザ宗は健在。そしてなぜ脱いでるんだウザ宗。

「俺の元親への愛はそんなobstacleじゃ萎えねーぜ…?むしろクる」

ゆらり、と背後にオーラが見えそうである。格闘マンガ的な感じ。強そう、(見た目は)かっこいい。

ただ一つ言わせてもらえば貴方が愛と呼ぶそれは、世間一般では決して愛ではありません。

「ひっ」

怯えた元親は縋るように小太郎にしがみついた。そりゃそうだ。ここでウザ宗の腕の中に戻ったりしたら、元親の行く末は色んな意味で天国だ。

「…………」

震える二人(理由は全く違うが)を見て小太郎は困ったように首を傾げた。

やはり幸村や小十郎達とは違う(彼らならセクハラ発言をした時点で「そうだ、フルボッコにしよう」となる。正しい判断だ)。

「さぁhoney、」

ジリ、と変質者が近寄る。小太郎も後ずさりながら背後に顔を向けた。ドアとの距離を図っているらしい。割と遠いことに眉を顰めた──顰めた、のが悪かった。

「今だぁあっ!!」

変態が跳んだ。

「…!」

いかに体育が5の風魔君といえども、能力は限界突破な変態に隙をつかれては厳しい。せめて元親だけはと庇った。






「「「「うらァアアッ!!」」」」

瞬間響き重なる四人の声(多い)。

「ぶほぉっ!!」

変態が飛んだ。元祖元親を守り隊(?)が鉄拳を全員同時に叩き込んだのだ。

ちなみに全員手袋または軍手装着。なぜならウザ宗に触りたくないからです。

「み、みんな!っありがとう…!!」
「ご無事で良かったです元親殿ぉ…!!」
「間に合って安心したぜ…」

グスグスと泣く元親にかけよる隊員。

「コタちゃん!変態相手には遠慮しなくていいって言ったでしょ!!どうせ死なないんだから」

元親を降ろした小太郎に佐助が説教した。

「……」

ごめんと頭を下げる素直な小太郎の肩に手をポンと置いたのは慶次だ。

「まーまー。コタローはよくやったって!元親無事だったし」
「うん…ホントにありがとな小太郎」

やっと笑顔になった元親に癒される面々。横たわる変態に目をやる者は一人もいない。多分視界にも入れたくないというのが理由だろうね。






「──帰るか」

促した小十郎にみんなは頷き教室を後にした。横たわる変態を気にする者は以下略。



今日も元親に何もなくて良かったですね!




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