□本当は愛してる。
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「ア、アルト…?」


「…よう、シェリル」



アルトが私の部屋にいた。

何勝手に入ってるのよ。
というかどうやって入ったの、鍵はちゃんと閉めてたのに。


さっきだって鍵を開けて部屋に入ってきたのに。

人が疲れて帰ってきたのにまだアルトの相手をしなきゃいけないの?


もう相手しなくていいと思っていたのに。




「何でここに、」



「会いたかったからさ」



「…別に私は会いたくなかった」



「ははっ、ひでぇなぁ」


少し笑うアルト。

そして私の頭に置かれようとした手は、

目的を成すことなくすり抜けた。



すぐ近くにアルトの手があるのに、優しくて大きな手があるのに触れることが出来ない。


ぼやけて見えない。




「…」



「…シェリル、泣いてんのか?」



「泣いてなんか、ないわよ」


じゃあその瞳から流れてるのはなんだ、と聞かれたら涙としか答えようがないのだけど。

アルトの前で泣きたくなかった。

笑っていたかった。

アルトに弱い所なんか見せたくない。


「俺のために泣いてくれるとか、嬉しい」


「…泣いてないって」


「ありがとな」



「ばか」




「シェリル、シェリル、本当にありがとう」



「ば、か。アルトなんか」



言葉を言い終わる前にアルトはいなくなってしまった。


涙で滲む視界の中、アルトは笑っていたような気がした。










「アルトなんか、…大嫌い」




どうして放っていくのよ、勝手にいなくなるのよ。私まだアルトに何も伝えてない。アルトの優しくて大きい手が嫌いじゃなかったこと、アルトの笑った時の顔が嫌いじゃなかったこと、紙飛行機を折るアルトが嫌いじゃなかったこと、眉間に皺を寄せながら操縦桿を握るアルトが嫌いじゃなかったこと、アルトが別に嫌いじゃなかったこと。私まだ何も伝えてないよ。ばか、飛行機ばか、アルトなんかもう大嫌いよ。自分の言いたいことだけ言って消えちゃって、何がありがとうよ。格好つけて。格好つけて私なんかを庇うから。ばかだ。ばかばかばかばかばか、ばーか。勝手に死んでんじゃないわよ。ばか。大嫌いよ、大嫌い大嫌い大嫌い大嫌い。


アルトなんか大嫌い。







 




(あたしにも、好きの一言くらい言わせなさいよ)



(でも、それを言う相手はもういなくて)

 

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