Sweet
□モノマネの王子様
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けど、告白の台詞とか、まったく考えてへんのや。
いま考えればええって思ったけど、今日はそばにユウジが常におるわけやから、考える隙もないんや。
だから余計、頑張らなあかんって思ったんや。
「あき、午後の授業なんやったっけ??」
「渡邊先生の授業やった気が……ってどこ行くん!」
ユウジがまたしてもうちの手を強引に引いた。
それにまたうちは、ささいなことやのに、ユウジを好きって思い知らされるんや。
「漫才練習する。ちょ、付き合うてや」
「はぁ?うち、小春みたくできへんよ?」
漫才練習って…。
授業は?さぼるん?
ま、授業さぼる分には文句あらへんけど。
「小春みたくできへんでもええから、練習付き合うてほしい」
着いた場所は次の授業は使わないとみられる空き教室。
「で、なにするん?」
なんか緊張する。
まわりに誰もおらへんって…。
「うーん、ネタいうてもあきができるネタなんてないやろなぁ」
「なら何で連れてきたん」
「何で連れて来たんやろな(笑)」
そう笑ってユウジが言うから、少しうつ向いた。
だって、凝視してたら、多分頭から湯気が出そうやったから。
おさまったと思ったらゆっくりと顔を上げてにっこりと笑った。
「しゃあないから、ユウジ、モノマネでもして、な?」
「わかった!モノマネしたる!『ほな、最初は俺や、あき先輩。はよぜんざい作れ言うとるやないすか。もしかして作れへんの?ほんま使えないっすわあんた』」
見事な財前光のモノマネ。
声だけやなく喋り方もそっくりやった。
て、
「うちはぜんざい作れるで!?その気になればやけど」
「『ちゅーか小春風邪引いたんやてなー。健康によく効くなんか持ってってやるか、な?』」
今度は白石蔵ノ介。
「今日はうちがおるからええやん(笑)」
「『浪速のスピードスターの方が上やっちゅー話や』」
どのタイミングで、謙也になってるんですかね。
いや絶対会話成立してへんやろ。
こんな感じで延々とモノマネが続いた。
「上手やな、モノマネ」
「当たり前やん。得意分野やねん」
「けどやっぱうち」
「?」
「小春との漫才のが好きみたいや。うちは小春みたいにはなりきれへんし」
近くにあった机の上にそのまま座った。
「そんなこたない。今日楽しかったで」
「そっか、おーきに」
しばし沈黙が漂う。
てか、言葉が見つからへんかった。
「あきは今日、俺といて楽しかった?」
「まあ、それなりにはやけど」
「それなら、よかった」
そのあと、いつもみたいにずっと喋ってた。
本当は、告白する気やったのに、タイミングがあらへん。
どないしたらええんや。
そうこうしてるうちに授業はもう終わりそうに。
「教室帰る?ユウジ」
机からぴょん、と降りて教室をスタスタと出ようとしたら、ユウジに制服を引っ張られた。
「もうちょい…おったってええがな」
いつになく目線は落ちているユウジ。
けど、それにもドキッとしてうちは言う。
「…しゃーないな」
仕方なくまだいることにして今度は壁によりかかった。
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