PLAYERSU
□恋をする一歩手前
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出会いなんて最悪。もう恨んでも良いと思うくらい。
入学して一週間。隣のクラスにモデルの黄瀬涼太がいるという話でわたしのクラスまで話題が持ちきりになっていた。
正直わたしとしては、黄瀬涼太の第一印象は最悪だった。
廊下ではいつも女の子にちやほやされながら歩いてるし、なんか"俺かっこいいだろ!"みたいな感じであしらってる様子がムカつく。
そんな彼はわたしのことなど知るはずもない。喋ったこともない。目が合ったこともない。完全に眼中にないといった感じだ。
まわりの友達はみんな"黄瀬クンとお話したいー"とか"バスケしてるところも観たいなぁ"とか言っているけど、あんなチャラチャラした奴の何がいいんだよと呆れる毎日だった。
今日もいつもと同じように授業を受けていつもと同じようにお昼ご飯の時間になる。
いつもと違うことと云えば、そうだな、今日はお弁当じゃなくて食堂でみんなで食べようということになっていることくらい。
まさかそれが不幸に繋がるとは思いもよらなかったが。
「みく〜なに食べる?」
「わたしは、ラーメン」
「えー、定食にしないの?」
「ラーメンがいいの!」
そんな会話をしながら廊下を歩いていると、目の前に例のモデルとその友達らしき人がいるのがわかった。まあ、ただそれだけなのだが。
のはずだったのに、黄瀬涼太のそばを通り過ぎようとした瞬間に、不意にわたしの顔面目掛けて何かが飛んできた。
びっくりしたが、咄嗟に避けることも出来ずにその"何か"が顔面にクリーンヒットしてしまった。
それは臭いと感触ですぐにわかった。これは他でもないシュークリームなるものであった。当然ながら、顔面から首筋そして制服までクリームまみれになってしまっていた。
一瞬何が起きたのかわからずに硬直する。すると、わたしのすぐ目の前に黄瀬涼太が苦笑いをしながらやってきた。
「ごっごめん!ほんとごめんっ!本当は別の奴にやるつもりだったのに、あいつが避けるから!」
どうやらコレをわたしにぶつけてきたのは黄瀬涼太らしい。しかし、本当にこいつは謝る気があるのか。一応頭は下げているが何せ苦笑いだし、しかもまわりの人達も笑ってる。ホント、いい見せ物状態になっていた。
「……ぶつけたのはあなたでしょう?人のせいにするとか、マジ信じらんない。最低」
口元のクリームだけ舐めて、苛立ちをこめて冷たく言い放つと、黄瀬涼太は少し困った顔をした。
「だから、本当にごめんって」
この男は本気でチャラい奴だと思った。なにせ明らかに女の子扱いに慣れてるような口調だし、その顔からもわたしの機嫌を取る様子が窺える。それを見てわたしの怒りも最高潮になった。
「だいたいねぇ…謝って済むんだったら警察いらないんだから!」
ピシッ
廊下にわたしの怒声と乾いた音が響いた。そう、その瞬間にわたしは黄瀬涼太に平手打ちをしていた。
彼の余裕な表情は消えていた。むしろ、驚いた表情しか見せていなかった。まわりの人達も驚いた様子でこちらを見る。
しかしそんなのも気にせずに、黄瀬涼太をありったけ睨みつけて、とりあえずこのクリームをなんとかしなくちゃいけないと思い、元来た道を折り返してトイレに向かった。
わたしは、振り返らなかった。
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