PLAYERSU

□恋をする一歩手前
2ページ/3ページ




「ほんっとに最悪」

顔も髪も水で綺麗に流したが、制服だけはどうにもならなかったので体育着を一応は着て落ち着いたわけだけど、やはり苛立ちは収まらなかった。


「まぁまぁ、黄瀬くんもきっとわざとじゃないって」
「わかってるけど、やっぱりわたしあの人苦手。なんかやな感じ」
「そうかなあ、あたしはそんなことないと思うよ?」
「食べ物粗末にする人が良い人なんて思えない」

そう言ったら高らかに笑われた。でもだって本当に苦手なんだもん。だからこそ、今日の出会いは最悪だった。

しかし我ながら自分も嫌な奴だと思った。クリームまみれにされたとはいえ、初対面の人をいきなりひっぱたいてしまったのだから。

ちょっとやりすぎたかな……。







そのあとの休み時間になると、見慣れない来客がわたしのもとへ来た。

「神崎みくさんっているスかー?」

ドアを開けるなりわたしのことを呼ぶ。その聞き慣れない声の主はなんと黄瀬涼太だった。

クラス中の女の子がわたしを見た。それにもびっくりしてわたしは呆然と硬直する。


「あっいたいた!」


わたしの方を見るなり笑顔で寄ってくる。わけがわからない。わたし、さっきこの人殴ったのに。

黄瀬涼太はわたしの座っている席に手をついた。


「……黄瀬涼太。何か、用?」
「そ、そんな冷たい目しないでほしいっス。しかも何でフルネームなんスか;」
「じゃあ、黄瀬くん。何か用?」

ふう、とため息をついて呆れた目をして黄瀬くんを見た。

そのときふと、不覚にも黄瀬くんをかっこいいと思ってしまった。こんな近くで見るのは初めてだったから。

切れ長な目。整った鼻筋。どれを見てもさすがはモデルとしか言いようがない、と気付いてしまった。女の子が騒ぐのも無理ないか。


「お昼は、本当ごめん。神崎さんに最低なことしたっス」
「わざわざ謝りに来てくれたってこと?」
「そうっスよ。……あ、これ使って?」


と、差し出されたのは部活で使うようなスポーツタオル。わたしが"は?"というような顔をしたら、黄瀬くんはそれをわたしの頭にパサッと乗せた。

「ちょ……何!?」
「髪、びしょ濡れっスよ。洗ったからっスよね?それってつまり」



"俺のせいじゃないスか?"



そう言うと黄瀬くんはわたしの目線の高さまで腰を落として頭を撫でるように拭いた。

「!?」

びっくりして仰け反ると、黄瀬くんは笑って、"何もしないから"って言ってきた。

こいつは、おちょくっているのだろうか。やっぱりただチャラいだけなのか。でも、直に接してみて何となくわかった。これは単にチャラいだけじゃない。


本当に、単純な、優しさ、だったり?

一瞬そう思ったときに、黄瀬くんの顔が目に入って、彼の左頬が赤く腫れているのに気付いた。わたしが叩いたあとだ。


黄瀬くんの行為を優しさとして受けるなら、わたしも彼に対してした行為を少しは反省しないといけない、と本能的に悟る。


「黄瀬くん」
「何スか?」
「さっきは、やりすぎた。…ごめんなさい」
「……え?ああ、叩かれたところなら平気っスよ。てか元はといえば悪いの俺だし」
「……そっか、ごめん」


さっきより声を小さくして謝る。悪いのはわたしも同じなのにと思ったが、黄瀬くんはそれでも笑ってくれたから、これで良かったのだと思えた。

わたしは表情に決して出さなかったけど、ほんの少しだけ、黄瀬くんのことを見直した。

あんなに嫌っていたのに、いざこうやって話してみると、気さくで、全然女の子に対する下心とか感じられない。

本当にただモテるから、まわりに女の子がたくさんいるだけなのか、と見方が変わる。




.
次へ
前へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ