PLAYERSU
□恋をする一歩手前
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ふと疑問に思ったことがあって、黄瀬くんに聞いた。
「わたしと黄瀬くん、今日初めて話したのに、どうやってわたしの名前とかクラスとか、知ったの」
黄瀬くんは学校でも知らない人がいないくらいの有名人だから、わたしが彼を知っているのは当然といえば当然だが、逆に彼がどうしてわたしのことを知っているのか気になった。
今まで、話すどころか目も合ったことなかったのに。
まさか、黄瀬くんは学校中の女の子のクラスと名前を覚えているのかと気持ちの悪い妄想をしてしまった。
そんな妄想につられて黄瀬くんを敬遠するような目をしたら、"え、何その目は"と苦笑いされたので、黙って普通に黄瀬くんをもう一度見据えた。
「どうやって知ったのかはわかんないスけど、俺は入学したての時から神崎さんのこと知ってた」
「…?わたしたち、接点とかなかったじゃない」
「そっスね、でも俺はずっと神崎さんと話したいとは思ってたから」
黄瀬くんの思わぬ言葉にどう反応していいかわからなくなる。
さっきまでなら、"ばっかみたい"と切り捨てることなんて容易なのに、できない。
いつもこんなふうにきっと女の子のこと口説いてるに違いないと思ってたのに、何でだろう、そんなふうに全然見えない。
嫌いだったはずなのに。
黄瀬くんのその眼差しが、わたし1人をちゃんとみてる気がしてならなかった。
そう考えたら、わたしの中に知らない感情が沸き起こった気がした。
「わたしは、黄瀬くんのことが嫌いだった」
「だった?過去形?」
「正しくは今も……たぶん」
「たぶんって何スか!」
思わず吹き出す黄瀬くん。
「傷つかないの?嫌いとか言われて」
「傷つかないわけないっス。でも、そんなのこれからいくらでも好きに変えられる」
好きに変えられる、か…。
思ってもみないことを言われてほんの僅かに心を揺さぶられる。自分が自分じゃないみたいだった。
黄瀬くんを見たら何だか恥ずかしそうに照れていた。
黄瀬くんって、こんな表情もするんだと改めて気付く。いつも見ていた女の子と一緒の彼は楽しそうには笑うけど、こんな顔をしているところなんて見たことがなかったから。
そこまで考えて気付いた。
嫌い。嫌いなはずなのにわたしは、いつの間にかこんなにも黄瀬くんのこと目で追ってた。
「じゃ、じゃあまた来るっス!タオル、返してもらいに」
それは、表向きはそう言うけれど、本当はまた会おうっていう口約束みたいなもののように感じた。
話しただけで、こんな感情になるなんて思わなかった。昼休みにあの出来事がなかったらこんな風に思うこともなかったのかな。
もう一度振り返る。わたしは黄瀬くんが嫌いだった。
でも、わたしはもう、その黄瀬くんに恋をする一歩手前。
end.
12/10/29