PLAYERSU

□好きという言葉の重さ
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涼太は、いつもいつもわたしが好きだと言う。

大好き、なんて胡散臭い。

つまりは信用していないのだ、彼のことを。


「だって涼太は、そういうこと、他の女の子にも言ってるんでしょ?」


部活後の下校までのわずかな時間。涼太にこの体育館の外に連れ出され、形ばかりの告白をされる。

一応マネージャーということもあって、みんなの前では涼太に対しても良い笑顔を振り撒くのだが。

冷めた目付きで返答すれば、涼太は余裕な笑みを見せた。

「そっスけど、なに?何か問題でも?」


最低な奴だ、とわたしは思う。

人の思いを踏みにじって、笑ってる。こいつに今まで何人の女が餌食になったのかと思うと更に苛立ちが込み上げてくる。

そんなわたしまで彼に惚れ込んでいるなんて自分でも腹立たしい気持ちになる。

忘れようったって、頭から離れてくれないのだ。彼にはそういう力があるような気がしてならない。


「問題っていうか…涼太のしてることが良い事じゃないってことくらい、誰にだってわかるわ」

そんな余裕な笑みた対抗するかのように、わたしは真っ直ぐに受け答える。まるで、今にも喧嘩しそうな雰囲気にすら感じられる。

でも、そんな中でもわたしが涼太にそういった物言いが出来るのは、離れていくわけがないと、暗黙の中で理解していたからである。

わたしは、涼太の玩具なんかじゃない。


その見下し精神が垣間見える笑顔で、涼太は続けた。


「可愛いコに好きだって伝えて何が悪いんスか?」

苛立ってわたしはつい怒りの声を漏らした。

「軽いよ。好きって言葉の重みを、わかってない」

すると間髪入れずに反論とばかりに言い返す。

「わかってないのは、みくのほう。言葉なんて所詮言葉でしかないんスよ。好きって言葉に込める思いが重いか軽いかなんて、かける人によっても違うし、全然ばらばら」


言葉にしちゃえば、なんら変わりはない、と思う。その重みとやらが、相手にどの程度のものなのか、伝わらなければ意味がないとも思う。じゃないと、勘違いしちゃう。だからこそ、わたしはその涼太の言い分に、聞き返す。


「じゃあ、わたしへの"好き"の重みはどれくらいなの。答えてよ」


真剣な眼差しで聞けば、涼太はいつになく一瞬だけ困ったような表情を見せた気がした。

そして一歩わたしに近づいたと思ったら、わたしの顔の横の壁に右手をついて、距離を縮める。
人一人分も入る隙がないくらい至近距離から、またさらに見下した目でわたしを見た。

正直、こんな展開になるなんて思っていなくて、動揺した。いつもだったら、こんなことしないから。いつもは、わたしが適当に流して、雰囲気壊して終わりだったから。

今日は、いつもの涼太じゃない。本能からそう悟った。


「好きっスよ?みく」

「それじゃあ、わかんないよ、涼太」


次の瞬間だった。


元々なかった距離を更になくす形で、わたしに覆い被さるようにして、キスをした。

唇はすぐに離れたけど、びっくりして涼太のことを突き飛ばそうとしてしまったが、それにも動じずに、もう一度唇を塞いでくる。


「……んっ…!」

わけがわからなかった。何故いきなりこんなことをするのか。涼太のこと、理解できなかった。

さっきよりちょっとだけ長いキスして、唇を離して涼太は呟くように言う。


「これが俺の本気だから、みく」

名前を呼ばれると、いつになく涼太を意識してしまう。

信じられなかった。それは単に唐突すぎたから。涼太のことを完全に信用していないわけじゃないけれど、それにしたっていきなりすぎる。

「そんな、いきなり言われて…はいそうですかなんて信用できな…」

「なら、信じてくれるまでするっスけど…いい?」

いい?とか聞いておきながら、わたしには答えさせてくれはしなかった。なぜなら、何か言う前にまたもキスをされてしまったから。

回数を増す度に激しくなっていくのがわかる。でも、その重なった唇から、涼太の"好き"の重みが伝わってくる気がしてならなかった。

紛れもなくこれは、本気なのだと解る。初めて涼太のことをこんなにも愛おしいと思った。


嬉しさからか、安心したからか、わからないけれど、キスの中で無意識のうちに頬に涙が伝っていた。








end.
12/12/11

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