PLAYERSU

□彼が私に触れない理由
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わたしから手を繋いだり、キスしたりなんて、したことない。

反対に和成も同じで、わたしには触れてこようとはしない。


単にわたしがそうしないのは、緊張とか、見栄とか、そういうのが重なっているだけなのだけれど、和成にそういった気持ちがあるのかどうかなんて、わからない。


「和成っ、帰ろう」

「おーよっ!」


それでも二人で居る時間は格段に長い。だから、わたしたちの気持ちに亀裂があるわけでもない。

でも、和成はわたしに一切手を出さない。なにかわけがあるんじゃないかってくらい、頑なにその類を拒む。

それにしたって和成はわたしのことが好きだと言うし、わたしも好きだと言う。

ちゃんと通じあえていることは確かだから、あまりこの点に関してはわたしも和成も言わない。



けど、正直、なぜ彼がそれを拒むのか疑問ではあった。



「………でよー、俺ら部活ちょーきついのにあの体育教師」

「ねぇ和成」

隣で歩く和成の大したこともない話を遮って、立ち止まる。

「?どーしたのみく」


不思議そうにわたしの顔を覗き込む。その顔に一瞬自分がなにをしようとしたのか忘れそうになる。

つまりは、思わず見入ってしまいそうになったのだ。

でも、それを打ち消して意を決する。

それは、わたしのほうから和成に触れること。緊張、なんて言葉じゃ言い表せないほど気が動転しそうだった。

見栄やプライドは今だけは捨てた。

ただ、そっと和成の左手を握ってみる。初めてのことで、どうも新鮮味が強い。


「っ…みく?」

わたし以上に和成のほうが動転しているのがわかった。その声色からうかがえる。

「か、和成はさ…」


その先の言葉が少し言いにくくて、言葉が詰まった。

でも、間を置いてしっかりと言う。

「わたしとの関係を、なんていうのかな…進展?させたいって…思う?」

「きゅ、急にどうしたんだよ」

「わたしは、したいよ…?」


動揺する和成の手をさらに握って迫るように、でも遠慮がちに言うと、彼はさらに顔を真っ赤にして目をそらした。

なんだかそれが嫌で、わたしはいつになく真剣に和成の目を見て言った。

「そらさないで…っ」


するとはっとしたようにわたしの目を見た。

何を考えていたかはわからない。けど、しばらく黙っていたかと思えば顔を真っ赤にしながら焦ったように言った。


「ちょ、タンマ、タンマっ!そんな目されたら、俺のほうが…余裕…ねぇ…」

「え?」


恥ずかしそうに手を顔に当てているが、それはもう無意味に近く、耳まで真っ赤になっていた。

和成のこんな表情は今まで見たことがなくて、少し不思議な感覚だった。

すると、和成は恥ずかしそうにしたまま話し始めた。


「お、俺だってみくと手繋いだり、抱き締めたり、き…キスしたりとかしてーよ?でも、いざしようとすると……」

そこで口をつぐむ。そしてさっきよりちょっと声を小さくして情けなさそうに言った。


「みくのこと意識しすぎると…なんつーか、直視出来なくなるっつーか……途端に触れるのが怖くなっちまう…情けねーよな、マジ」

「和成…」

「みくのことは、すげー好きなのに。進んだら離れていっちゃうんじゃねーかってちょっとでも考えると…怖い……」


彼のこんな弱気な表情は初めて見た。普段からおちゃらけていて軽い調子のムードメーカーなのに、今はそんな一面は微塵も見られない。

でも、和成がそんな風に考えているなんて、知らなかった。そんな不安を抱えていたなんて、知らなかった。

それを見て、解決してあげられるのは自分しかいないことに、気がついた。

そして自分が大切にされていることにも。

だから一言、優しく告げる


「和成、わたしは離れていかないから…だから、大丈夫だよ?」


そう言った瞬間に和成は安心した表情を見せた。

なんだかそれを見てわたしのほうも安心した。


「ありがとな、みく」


そう笑うと、もう一度、今度は和成のほうから手を取って歩き出す。

緊張からか、少し手が震えているのがわかった。正直なところ、これはお互い様である。

それを隠すかのようにギュッと強く握って、わたしにさらに寄り添う。

手を繋いだことなんかなかった。だから、こんなにも近い距離も知らずにいた。


でも、ここからはわたしたちの互いの距離なんてなくなるくらい、心も身体も傍にいられたらいいな。


なんとなくわかる、和成もきっと同じことを考えているのだろう。






end.
12/12/25

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