PLAYERSU
□彼の本気で本当の嫉妬
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わたしは、敦のことを理解しきれていなかったのかもしれない。
無理もない。だって、敦は元々言葉数も多いわけじゃないから、意見のすれ違いなんてよくあることだったし。
それでもわたしは彼が好きであり放っておけない。
一緒にいる理由なんてそれで十分な気がしていた。
理由なんてのはそれでいい。でも、やっぱりそれだけじゃなくて一緒にいる以上お互いのことをそれなりに理解するべきだった、とも思う。
―
いつもみたいに授業を終えて、クラスで仲の良い氷室くんと特に他愛もない話をしていた。
氷室くんは敦とも部活で仲が良いから、自然とわたしたちは打ち解けていた。
すると、教室の入り口にとてつもなく大きな人影がたった。
紛れもない、敦。
たまたま通りかかっただけだろうと思った。実際そうだったのかもしれない。
けれど、彼はその大きな体を少し屈めて教室の扉をくぐるといつもとは違う怖い目つきをしながらこちらにズカズカと歩み寄ってきた。
学年が違うとはいえ、相当な威圧感。
教室の人はみんな彼のことを見ていた。
そして、わたしの氷室くんの前で立ち止まる。
「やぁ、アツシ。どうかしたの?」
と、氷室くん。
「この教室に来るなんて珍しいね」
わたしがそう言うと、敦は一瞬だけ氷室くんを睨むような目をして自身の大きな手でわたしの手を掴む。
!?
「室ちん、ちょっとみくちん借りるー」
その声色に少しだけ皮肉が入っていたなんてわたしには全然わからなかった。
そのままわたしの了承を得ずに手を引っ張って教室の外へと連れ出す。
「あっ…つし!手痛い……!」
「みくちんが悪いんだよ?あーでもこの場合は室ちんが悪いのかなー。うーん」
「え?」
敦は乱暴にわたしを壁に押し付けて目の前に立って行く手を阻む。
今まで見たことのない敦の目にわたしは思わず怯んでしまった。
わからない、けど、怒ってる…?
「ご、ごめん!」
「何で謝ってんの?俺まだ何も言ってないけど。謝るようなやましいことでもしたの?」
「ちが…」
わたしの言葉を遮るようにして雑な口調で言葉を投げつける。
「あれ、まさか室ちんとはもうキスまでした?もしかしてそれ以上?展開はっや〜。なに、もしかして俺が遊ばれてんの?ねー、みくちん」
「わたし、氷室くんとはそんな関係じゃないよ!」
「そんなこと言ったってさ、きっと俺らの関係知らない人が見たらみくちんと室ちんは付き合ってるように見えるよ」
胸糞悪い、と呟いて右手をわたしの顎に添えていつもより力を込めて上向きにさせる。
その手から、敦はやっぱり怒っていると感じとれた。
それも、氷室くんへの嫉妬。
「俺もけっこー見てないフリとかしてたけど…もう我慢の限界かも。室ちんさー、部活でもその日みくちんとあったこと俺に自慢みたいにしてきてさー」
また少し、手に力がこめられる。
「からかってるだけってわかってても、ねー。イライラすんだよ、そういうの」
そう言ってから、わたしの唇が塞がれるまで、目にも止まらぬ速さだった。
学校の休み時間。廊下には人がたくさんいるというのに。
敦はそんなことも気に留めずにわたしにキスをしたのだ。
まるでそこにいる人達に見せつけるかのように。
深い深いキスなのに、無味だった。
敦はいつもお菓子ばかり食べているから、キスをするときは甘いとかしょっぱいとか必ずと言っていいほど味がある。
なのに、今日は無味で…もしかしてお菓子食べてないのかなとか何かあったのかな心配だとかそんなことばかり、この状況で脳裏をよぎっていた。
その時の敦はなんだかすごく怖くて、キスからいつもみたいな優しい愛だなんてこれっぽっちも感じ取れない。
うれしいはずなのに、ちっともそんなことない。
わたしは、敦が好きなのに。
敦だけが好きなのに。
敦が氷室くんに嫉妬しているのはわかる。嫉妬が愛故だってこともわかる。
でも、こんな優しくない愛され方なんて、嫌だよ……。
ふと、涙が伝った。
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