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□彼の本気で本当の嫉妬
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それに気がついた敦がパッと唇を離してわたしをびっくりした目で見た。



「……みくちん?」


「ごめ……っわたし」



"女はすぐ泣く。泣けば済むと思ってる。泣けばみんな悪いのは男だってことになるから。卑怯なんだよ。"


誰かが前にそんな風に言っていた。わたしもそうだと思って鵜呑みにして、敦とは何度かケンカとかしても絶対泣かないようにしてた。


泣いたら、嫌われると思った。
だから、しまった、と思った。



咄嗟に自分で涙を拭ってもう流れないように堪えた。なのに、



「あ……あれ…?」



拭ってもまた溢れ出す涙。わたしの意思とはまるで正反対だった。


「…なんで……っ、止まんないの…」




駄目だよ、こんなんじゃ敦に本当に嫌われる。"メンドクセー女"って切り捨てられて終わる。

そんなの、嫌なのに。



でも、そう思えば思うほど涙が止まらない。


泣き顔なんて見せたくなくて俯いていたら、敦がわたしに言った。



「みくちん、顔上げて?」



わたしは無言で首を横に振った。



すると、敦はわたしの頭を優しくポンと撫でた。

わたしの大好きな仕草。反射的にわたしは敦のほうを見上げた。


そこにはさっきみたいな怖い敦じゃなくて、優しい眼差しをした敦がいた。



「何で…?わたしのこと、面倒だとか、思わないの?」



「たしかに、泣かれるとか最高にメンドクセーと思うけど。でも俺ちょっと今、安心した」


「え……?安心って…どうして」



「だってみくちん、俺とケンカして確実に俺が悪いときも泣かないしすぐ謝るし…本音もなかなか言ってくれないしー、ホント遊ばれてると思うよね、正直。おまけに室ちんとあんな仲良くしてたら尚更だよ?」



「うそ………」



「不安で押し潰されそうになんだよ、柄じゃねーけど。俺の気持ちとか何一つ伝わってねーのかなって。だから、今ちょっと安心した」



正直、驚いた。敦がこんな風に考えていたなんて。



「えーっと、さっきは酷いことたくさん言ってごめんねー?俺もなんかちょっと神経質になってたみたい」



「ううん、気にしないで?」



いつの間にか涙は止まっていた。敦は安心したと言っていたけれど、わたしもなぜか安心していた。



「あ、のね…敦」


「なに?」



「わたしが好きなのは……、敦だけだからね?」



ると彼は一瞬恥ずかしそうな顔をして、



「いきなりそういうこと言うの、反則だよね」


と言いながらわたしの頭をまた優しく撫でた。


「それ、俺の台詞だし」


そう小さく呟いていた。本人は聞こえないように言ったつもりみたいだったが、わたしにはしっかり聞こえていた。





そういえば、敦がこんなにもわたしに対して本音を伝えてきたのは初めてのような気がした。


わたしはたしかに敦のこと理解不足だったのかな、と思ったけれど、そんなのこれからこうやって本音をぶつけ合えばいいのだと気が付いた。




本音が言えるのはきっと互いに壁の無い証拠。



なんだか敦が今まで以上に頼もしく、愛おしく思えた。










end.
13/03/03
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