PLAYERSU
□お互いが1番で
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「俺って、結構嫌われてるんスかね〜」
どうしたの唐突に、とわたしは涼太に聞く。
すると苦笑いをしながら彼は言う。
「こないだ、同中の奴に大会頑張れって送ったら、死ねって返ってきたんスよー。なかなか酷いと思いません!?みく先輩」
それはさすがに酷いと思いながらも涼太にはなぜだかそういう言葉を平然と浴びせたくなるものだとわたしも内心思わなくもないタチだった。
それに、
「知ってる。その話、幸男から聞いてる」
「なんだ〜。笠松先輩もそういう俺の話みく先輩にするんスね〜。ちぇ、なんか嫉妬」
唇を尖らせながらボソッとつぶやくその声もわたしの耳は捉え逃したりはしない。
「へぇ、わたしと幸男がそんなふうに仲良くしてるのそんなに気に食わない?」
「何今更そんな当たり前のこと聞いてくるんスか?俺だって笠松先輩に嫉妬くらいするっス。てか、下の名前で呼んでるし」
さらにムッとした顔を見せて機嫌悪そうにする涼太。
その顔、わりと嫌いじゃない。
幸男はたしかにわたしとは仲が良いけど、別に特別な関係じゃないし、もしも付き合っているとしたら、わたしと涼太がこうしているのもおかしい。
「本気で妬いてるの?」
「本気もなにも、みく先輩の口から"幸男"って名前が出る度ちょっと気分悪くなる」
それ、本当に妬いてるんじゃん、と思いながらもわたしは涼太に笑いかける。
「今の、幸男に言っておくね、涼太」
するとますます不機嫌そうな顔をして低くつぶやいた。
「いい加減にしてください」
………え?
いつも、おちゃらけていて、先輩に対しても大した敬意も払わず接してくる涼太が、いつになくかしこまって真剣な言葉を投げかけていた。
するといきなりわたしの肩を掴んでグッと脇の壁に押し付けてくる。
「い…っ!?…涼太?」
「……それ、嫌がらせっスか。俺がみく先輩のこと好きだから離れられないのわかってて」
その顔は、もはや真剣そのもので、思わず目をそらしたくなった。
それすら見抜いたのか、"俺のこと見て"とすかさず言葉をかけられた。
「笠松先輩にまで嫉妬するとか、すげー情けない話っスけど、それでも、俺は俺のことちゃんと見て欲しいんス」
涼太の手が伸びてきて、わたしの頬に触れる。ほんのりと熱を帯びていて、なぜだかとても安心した。
少しだけ不安そうな目をされると、すこしからかいすぎたかな、という気持ちと、そういう目も悪くないかな、という更なる加虐心も生まれる。
別に、涼太を傷つけたいわけじゃない。不安がらせる為に幸男の話をしているわけでもない。
けど、涼太はそうは思わないみたいで。何かといつもいつも不安そうだ。
ちょっと、かわいそうだったかな。
「ごめんごめん」
おどけた調子でいうと、彼はいつもこう言う。
「後輩扱いしないでほしいっス」
と、それはそれでまたむくれる。
「わたしのこと、先輩だとも思ってないくせに」
意地悪く言い返すと、涼太はわずかに微笑んでわたしの頭をぽんぽんと叩いた。
照れ臭くて思わず頬を染めると、かわいい、って茶化してくる。
「今のも笠松先輩に言うつもりっスか?」
きっと彼はわかってて言っている。
「言わないよ。涼太のそういうとこ、他の人に知られたくない、から」
「ずいぶん独占欲強いんスね!」
ケラケラと笑いながら言って、涼太はそのあとに付け加えた。
まあ、俺もかな、と。
そのまま自然にわたしの手を取って、寄り添って再び歩き出した。
少し肌寒くなってきた秋のある日の出来事。
13/11/28