PLAYERSU

□離れていても
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わたしは昔から、赤司くんのことを見てた。


家がお金持ちで、それでも気取らない、頭が良くて運動もできて、それこそ出来すぎるくらいで……振る舞いだって誰もが見本とするくらい。


小さい頃から今に至るまで彼は変わらない。


でも、最近の赤司くんは何か少し変わった気がする。


勉強しなくなったとか部活がスランプになったとかじゃない。

むしろ、彼のこういった自身の成績とやらは日に日に上がっている気がする。

部活だってキャプテンをつとめて全国大会を連覇してるし、勉強だって彼が1位じゃなかったことなんてない。


では何が変わったのか。

それはわたしにもわからなかった。ずっと見てきたのに。

わからない。それがもどかしい。



けれど──、


彼はわたしを優しく丁寧に扱い、それこそ当然のように"好きだ"と言う。

それだけで、余計な事全部忘れられた。




「みく」


「なに、赤司くん」


「高校のことなんだが」


「どうしたの急に」


わたしが淡々と返すと赤司くんは躊躇うこともなくさらりと言った。


「京都の高校に行こうと思う」


───え!?


「本気で言ってるの!?」


動揺して思わず大きな声を出してしまった。

でも、そうせずにはいられなかった。

だってつまりそれは、


「赤司くんに、会えなくなる、ってこと?」


すると赤司くんは少しだけ目を伏せながら

「まあ、会う機会は少なくなるだろう」


と、言った。


正直な話、わたしとしては唐突過ぎて頭の整理がうまくいかなかった。

東京と、京都。あまりに遠い。


今までずっと近くにいたからこそ、離れるのはつらかった。



「その高校は、バスケのインターハイも常連だ。勉学についても悪くない。僕はそこで、自分を更に高めたい」

「でも──」


すると不意に赤司くんの手がわたしの頬に伸びてきて、まっすぐ瞳を捉えた。

今日の彼の手は妙に熱を帯びていて、逆に不安すら感じられた。

それでも彼の目にはもう迷いはなくて、わたしのことばじゃ彼をここに留めることはできないと悟った。

と同時に、それでも応援したいとおもった。


「赤司く……んっ」


唐突に、彼がわたしの唇を塞いだ。


交じる吐息に身体を強ばらせていると、彼の手がわたしの背中と後頭部に回ってきて、そのまま抱き締めた。


苦しくなればなるほど、頭がクラクラして、赤司くんのことしか考えられなくなる。


わたしの顔が真っ赤になるくらい深く口付けをしたあと、彼は訊いた。


「僕が、向こうで別の彼女を作ったりするとでも、思ってるのか」

その問いかけに、上がった息を整えなからぶんぶんと頭を横に振った。


「赤司くんは……そんなことしないって、思ってる、から」


「じゃあ、ここで僕のこと、待っててくれる?」


「もちろん、ずっと、待ってるから…」


悲しく笑いかけると、赤司くんはその手でわたしの頭を撫でて言う。


「いい子だね、みくのおかげで僕も頑張れる」


そうは言ったけど、彼もどことなく寂しそうにしていた。

けれど、その瞳には迷いがない。

何かが変わってしまった、と思うことはあるけれど、わたしへの気持ちは変わらずにあると感じた。



わたしたちの絆が本物ならば、離れていたってきっと大丈夫。



「卒業までまだ時間もある。それにみくの方が受験勉強が大変だろう?」


たしかに、わたしは赤司くんとは違って声なんて掛かってこないし、自分で勉強してちゃんと受験する他ない。


彼は別に推薦なんかもらわなくても、自力で受かることくらいできると思うが、わたしなんて頑張ったって志望校に受かるかどうかなんてわからない。


すると、間を置いて赤司くんは言った。



「だから、僕がみくの勉強を少し見てあげる」


「え………いいの?」


「忙しくても一緒にいられる時間を増やすことができる。とても効率的な考えだ。それに」


更に含みのある笑顔をして彼は続けた。



「僕が勉強を教えて、第一志望に落ちるわけがないと思うけど?」

赤司くんは自信ありげに、今のその空気すら楽しむかのようにわたしを見つめるのだった。


落ちるわけがない、とも思うけれど。


正直、落ちるわけにいかない、という気持ちもどこかにあった。


「大丈夫、みくなら受かるさ」


「また、わたしのことそうやって何でも知ってるみたいに言う……」


「知ってるさ。僕だって、伊達に何年もみくのこと見てきたわけじゃないからな」

さらりと言われ、わたしは思わず赤面した。


「何で赤くなるのかな」

「別に……っ赤くなってなんか………」


思わず否定すると、クスッと笑って"かわいい"とおちょくるように言うのだった。


その言葉に更に赤面させられるのだけれど。

照れ隠しをするようにそっぽを向くと、もっと笑われた。

でも、そのわたしを笑う声すらも愛しくて、卒業したら簡単には会えなくなってしまうと思うと、やっぱり、少し悲しい。


そんな瞳を、彼がのぞきこむ。


「そんな悲しい目をしないで─」

あまりに優しいその声に、わたしの声に嗚咽が混じる。けれど、わたしは泣かない。


「ごめん……でも、やっぱりちょっと寂しくて。けど大丈夫だから……」


すると、わたしのその不安を拭うかのようにすっと優しくわたしを抱きしめる赤司くん。


「今は、強がらなくていいから。好きに甘えていい──」


思わず涙が流れた。と同時に鼓動が速くなる。

ああ、こんなにも大切にされているわたしは、幸せ者だと思った。


「ありがとう、赤司くん……」





──


そして春。

わたしは無事に第一志望校に合格し、赤司くんも京都へと発った。








end.
13/12/20

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