PLAYERSU

□支え合って生きること。
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相変わらず雨は本降りで、ただでさえ冬だから寒いのに、余計に冷える。


待ち合わせした場所は、ここから徒歩数分の公園だった。

そこには、雨を凌げるようなよくある屋根があり、決して綺麗とは言えないけれど椅子とテーブルもあった。



わたしが公園に着くと、その椅子に腰掛けることもなく佇んでいる人がいた。和成だった。



「…急に呼び出したりしてゴメン」


和成はわたしの顔を見るなり謝った。

無理に笑っているのは一目瞭然で、わたしはすぐに彼に訊いた。


「何か、あったの?和成」


心配そうな声を漏らすと、和成はそこの椅子に腰掛けて、俯いたままぼそりとつぶやいた。


「……彼女と別れた」


えっ、と思わずわたしの口から零れた。

まさかと思った。そんなことあるわけないと。でも、和成の顔は真剣そのもので、とてもタチの悪い冗談とも思えなかった。


でも、わたしの心の奥底で、ほんの少し、ほんの少しだけ、笑っている自分がいた。


それに自分自身で気づいていたからこそ、自分が醜くて、嫌いになってしまいたいとも思った。


そんな心を隠して、落ち着いた声で更に問い掛けた。



「……どうして?何か理由があったんでしょう?」


すると、またつらそうに和成は言った。



「……アイツ、他の奴とデキててさ…しかも、俺の全然知らない他校の年上の奴で」

「………」


「何回か言ったんだ、そいつとは別れてくれって。でも……」


さらに唇を噛み締めて、泣きそうな表情のまま呟くように言った。


「違ったんだ。俺とは端っからまともに付き合う気すらなかったんだ。なんか俺、本気で好きだったのに、馬鹿みてえだ………」


クソッ、と悪態をついて、また俯いた。


突然のことすぎて、わたしのほうが理解に時間がかかった。


つまり和成は、遊ばれていたということ。

純粋にわたしは、許せなかった。

人の気持ちを踏みにじって、平気でいられるなんて、信じられないと。


でも、和成はなぜわたしにそのことを話してくれたんだろう。

わたしが彼にとって都合の良い友達だから?


そうであったとしても、彼は何かをわたしに求めている。"頼られている"という事実はわたしをほんの少しだけ彼の心に近づけてくれたきがしていた。




わたしが何も言えないでいると、急に顔をふっと上げてわたしのほうを見た。


「情けねーよな、ほんと。誰かに話したってこの事実が変わるわけでもねーのに。何やってんだか俺……」



和成は自虐的になっているみたいだった。

無理もない。傍から見れば和成が別れた彼女の事を一方的に他の子に言いふらしているようなものなのだから。


でも、そんな姿を見ているのはわたしもつらくて、ふと和成の隣にわたしも腰掛けた。



「そんな顔しないで…」


わたしの口から出たのはそんな言葉だった。


わたしに和成の気持ちが理解できるわけではないけれど、それでもそんならしくない顔をして欲しくなかった。


そんな女のことなんて忘れてしまえとか、和成にはもっと他のいい女の子と付き合えるよとか、そんな励ましの文句だって言おうと思えば言えた。


でも、言わなかった。和成が求めているのはそんな慰めの言葉じゃないような気がしたから。



「和成には、そんな顔して欲しくないの…だから、いつもみたいに笑っててほしい………でも」


わたしは、今度はしっかりと和成の目を見て言った。


「つらいときは、つらいって、言っていいんだよ?」



だって…本当はそうしたかったんでしょ?だからわたしを呼んだんでしょう?

言葉にはしなかったけれど、わたしはなんとなく、わかっていたから、訊かなかった。


わたしのその言葉に。和成の目が微かに潤んだ気がした。


好きな人に気持ちが伝わらないっていうことだけは、わたしも痛いくらいに理解していた。


だから、なぜかわたしの瞳も潤んでいた。




そして。


不意に距離が近づいたと思えば──彼はわたしをぎゅっと抱きしめていた。


「!?」


びっくりして身体を震わせると、抱きしめる力を少しだけ強めて、わたしの耳元で小さく囁いた。


「ゴメン……少しだけ、こうさせて欲しい…みく」


冷えきった身体。でも、少しだけ彼の腕は震えていた。


彼はもしかしたら、わたしのことを別の人と重ね合わせて見ているのかもしれないけれど、それでも今のわたしには悪くないとさえ思えた。


心の隙間を埋めるための、そう、本当に埋め合わせでしかないかもしれないけれど。


わたしがいることで、和成が少しでも、楽になれるなら。

この身を捧げたってよかった。

それほどまでにわたしは、和成のことが好きで、好きでたまらなかったんだ。



「ありがとう」


和成のその声には微かに嗚咽が混じっていた。

彼の顔は見えなかったけれど、わたしには簡単にわかった。



すぐ傍で降り続ける雨のように、それは彼の頬をも濡らしていた。





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