PLAYERSU

□そういう関係
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"お前、俺がバスケでなんて言われてるか知ってんのかよ?"



そう冷たく言われ、何も言い返せなかった。



聞いた話によると、彼は"悪童"と呼ばれているらしい。


何でそんな呼び名なのかと聞くと、まあ試合を見ればわかるよと流され、あまりに適当なあしらわれ方だったので、どうしようかと思っていた。




でも、ここで繋がりを切りたくなくて、わたしが試合を見に行ったのが、一昨日のこと。



花宮くんには、行くということは言わなかった。当日は話せるような雰囲気でもなかったし、でも、たぶんわたしがそこにいたことには気付いている。そんな気がする。




彼が目的のためなら手段を選ばない人だとは知っていたけど、でも、幻滅とか、嫌いになったりなんて出来なかった。




帰りのHRが終わり、教室を出ていこうとする彼を呼び止めた。


「花宮くん!」



すると、足を止めて怠そうにこちらを振り返る。



「…何か用かよ?」



「…いや、その」



なんで呼び止めたのかわからない。けど、そんなわたしに彼の方が言った。



「…なんでこの前の試合、見に来たんだよ」



「それは、俺がバスケでなんて言われてるか知ってるのかとか聞かれたからだよ」



本当は、直前まで迷っていたのだけれど。でもそれはあえて伏せておく。

自分の事を少しでも良く見せたいという小さな想いだった。




「ふーん……。んで、わかったんだろ?俺がどういう呼ばれ方してるか」



「わかったよ、なんでそんなふうに言われてるのか、非道だって周りが言うわけも……。でも、わたしだって、別にバスケしてる花宮くんしか見てなかったわけじゃない、から」




少しだけ照れくさくなって声が小さくなる。


すると、怠そうにしていた顔つきが変わって、不敵な笑みを見せてわたしにズイッと近付いた。



「俺のナニを見てたわけ?」



「……勉強、とか?あと、あ、そうだ、授業の時に、部活のこと考えてるでしょ?」


咄嗟に知っていることを吐くと、"ふーん……"とまた言ってから、わたしに向かってつぶやいた。



「…そんなに俺の事好きなのかよ」



ちょ、ちょっと待って!


わたしはたしかに花宮くんのことが好きだけど、でもそれをまだ口に出したことなんてなかった。



しかも、ここは教室で、まだ残っている生徒もたくさんいる。


そんな中で、こんな一言。


動揺を隠すのなんて出来なかった。


わたしは焦って、花宮くんの腕を掴んで強引に引っ張り出した。




闇雲に教室を出ていってなんとか着いたのが空き教室だった。


教室に入って落ち着いてから、いまの状況を再認識する。


「…………」


なかなかこれ、我ながらすごいことをしたと思った。



「お前、ちょっとからかっただけなのに動揺しすぎだろ」



「だって………!きょ、教室でいきなりあんなふうに言うから」



「あれじゃ本当に俺の事好きって言ってるようなもんだろ、バカか」



動揺と恥ずかしさを隠せなくて目を背けた。


もう隠し通せないとわかっていた。




「……って………き…な………」



「え?」



「だって……好きなんだもん……」



ぼそぼそと消え入りそうな声で。
もう伝えても良いと思った。叶わなくても良いとさえ。


顔が熱い。泣きそうになった。

それでも、花宮くんの反応を伺う。


彼はあまり、驚いたようには見えなかった。ただ一言、



「物好きな奴もいるもんだな」



と、言う。


「自分の事そんな言い方…しなくても」



「で、俺に、"なに"をして欲しくて、ここまで連れてきたのか、教えてくれよ」



わたしの言葉には応えず、不敵に笑ったまま一歩、距離を詰める。


いまのわたしは、それだけでさらに動揺した。


「そ、そんなつもりじゃ…なかったの!」



「へぇ?わざわざこんな誰もいない教室に連れ込んでおきながら」



「ちがうの!これはその、本当にそんなつもりじゃなくて」


じりじりと詰め寄られる度にどんどん動揺が隠せなくなっていく。


目を捉えられる度にそれに吸い込まれそうな錯覚をおぼえる。

膝が抜けそうで、頭がクラクラした。


好きな人に、こんな状況になるなんて、初めてだったから。



顔をグイッと近づけてくるから、思わず止めようとした。


「や、ちょ…なに…」



遠ざけようと花宮くんのことを手で押し返すと、その手を"邪魔だ"とでも言うように掴んで、壁に押し付けながら──


強引に、唇を重ねた。




「!?…んん…っ」


手を掴まれてから唇が重なるまでがとても短くて、驚きで声を出したくても出せない。


何よりも今わたし、花宮くんとキス、してる……。


なんで?わたしのことなんか、何とも…何とも思ってないくせに…。


熱くて、吐息の交じるような、少し苦しい感じ。これがわたしの、ファーストキス。



唇を離してすぐ、花宮くんが言った。



「落ち着いたかよ?」



「……は?落ち着いたって……いき、いきなりなんてことするの……っ?」



たまらずに言い返すと、花宮くんは笑いながら意地悪ぶって更に言い返された。



「こういうことしたくてここに来たって素直に言えば続きしてやってもいいけどな?」


「言うわけ無いじゃない!」



思わず、ぴしゃりと跳ね除けてしまった。


「ふーん?」


「……なんで、こんなこと、したの」



真面目に、それが一番気になり、ふと訊いてみる。


だってこんなことされたら、期待しちゃうじゃん。



すると、パッと手を離し、教室の扉に手をかけながら、こっちに背を向けたまま、低くつぶやいた。



「…したいと思ったから、した」



「えっ……」



「チィ…これだから鈍い奴は面倒なんだ」



わたしが返す言葉が見つからずに押黙ると、首だけこっちに向けて、言った。真剣な顔つきをしていた。




「お前なら、"そういう関係"になっても悪くねぇとは、思った」



そう、つぶやいて、教室を出ていった。




最初、言葉の意味が理解できなくてそのままそこに突っ立っていた。


けれど、彼の言いたいことがわかると、いなくなったあとなのにまた顔が熱くなるのを感じた。



さっき、触れられたところ全部がまだ、熱を帯びたみたいになっているような気がした。









end.
14/02/02

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