PLAYERSU
□関係ない
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その日の夜。
風呂から上がり、自室に行き、ひと呼吸おいて意気込む。
よし、ちゃんと話そう。
そう思ってカーテンと窓をあけ、真くんの部屋のほうをみると、真くんの部屋も明かりがついていて窓が全開だった。
「ま、真くん!」
彼の部屋に向かって名前を呼ぶ。しかし、返答がない。
「真くーん?」
いつもなら、大抵一回で気付き、"なんだよ、うっせーな"って言うのに。
2回呼ぶといつもは"聞こえてるっつってんだろ"って怒りながら顔を出す。
でも、今日はそのどちらでもない。
どうしたのかな?と思いつつ、わたしは躊躇いも無く窓の縁に足をかける。
昔から、こうやって勝手に入っては怒られたっけ。
と、昔のことを思い出しながらも、むこうの部屋の全開の窓から真くんの部屋に入った。
「おじゃましまーす…真くん」
相変わらずの部屋の様子。特に変わりばえもしていない。
ここに来るのは少し、久々かな。
すると、椅子に座りながらうなだれている真くんが目に付いた。
「ど、どうした─………の?」
思わず顔をのぞき込むと、彼は寝息をたてていた。
「スー…スー…」
「なんだ、寝てたのか……」
寝顔をふと見つめる。
実は、寝顔を見るのも初めてだった。
いつもは、あんなに怖い顔してるくせに、寝顔はこんなに…優しそう。
携帯とか持ってくればよかったな。写メ撮りたいくらい。
白すぎるくらいの肌も、今は何故か綺麗に思えて、意外と睫毛長いんだなあとか、顔小さいなあとか、色々と思った。
そんなふうに考えながら、ふと机の上のノートに目がいった。
そこには、バスケのことが色々と書かれていた。
「へえ……」
感心していたら、すぐ横で、"んっ…"と声がした。
ヤバイ、真くん起きる!どうしよう!
と思った時にはもう遅くて、真くんの寝惚け眼とばっちり目が合った。
「……お前、何してんだよ、人の部屋で」
「えっと…か、勝手に入ってきてごめんなさい。なんか、真くんとお話したいなーなんて、思ったんだけど」
ドキドキしながら言っても、真くんは顔色1つ変えない。それどころか、
「帰れ」
と、即答。
前は、嫌々ながらも相手してくれるし、帰れだなんて言ったこともなかった。
なのに、何で?
やっぱり、わたしは真くんに悪いふうに勘違いさせてしまっているのだろうか。
「…やだ、帰らない」
わたしが真剣に、強い眼差しで言い返しても、彼は言い返してはこない。なにかに、迷っているようにも見えた。
「最近は、冷たい態度ばっかりとってごめんね。でもそれは、その…別に真くんのこと嫌いになったとかじゃなくて」
「知ってる」
わたしの言葉を遮るようにして放たれた言葉。無愛想に、目も合わさずに呟かれた言葉だった。
でも、"知ってる"って、じゃあまさか真くんは何も勘違いなんてしていなかったってこと?
「お前が、俺に色目使ってんのはすぐにわかった。馬鹿正直だからな、お前」
そういうことだったのか。
全部、見抜かれてたということ。彼にはそんなことまでお見通しだったというわけか。
でも、指摘をされて、恥ずかしさから何も言い返せなくなった。
だってそれは、わたしが真くんのこと好きだってことが筒抜けだったということになるから。
「あと、昼間の会話は迂闊すぎだろ」
そう言われ、つい、ボソッと言い返す。
「あれは、真くんが盗み聞きしたんじゃん……」
「人聞きわりーな。別に盗み聞きしたくてしたわけじゃねーよ。勝手にお前らが話してたんだろ」
「たしかにわたしも不注意だったけど」
「だろ。ほら、話は終わり。帰れよな」
と、無理に話を切り上げられ、またも"帰れ"との催促。
なぜこんなに頑なに帰れと迫るのか。今までこんなこと、なかったのに。
「あの、真くん。わたしがここにいたら迷惑…なのかな」
「ああ迷惑だよ」
目も合わさずに即答。
迷惑だなんて言われたら、出ていくしかないと思った。でもさすがに、それはショックだった。
わたしの気持ちすらも否定されている気がして、涙が出そうになった。こんな顔、見せたくなんかないのに。
真くんは、そんなわたしを見て、少しだけ驚いた顔を見せた。そして、言葉を付け足す。
「だから、俺が言いてーのは、この歳にもなって、男の部屋にのこのこ一人で来んなって事だよ」
「……え?」
すると、座っていた椅子から立ち上がって、わたしの目の前に立つ。
意味がわからなくて、ポカンとした表情で彼を見つめた。
「どうしたの…?」
思えば、わたしは彼のことを、あまりにわかっていなかったのかもしれない。
こんなにずっと、近くにいたのに。
「どうしたの、じゃねーよ。笑わせんな」
と、聞こえたと同時。
強く腕を取られたと思えば、不意に視界が回転した。
それから、押し倒されているということに気付くのにはそう時間もかからなかった。
「真くん…!?」
「こうやって、俺に襲われたって文句言えねーんだぜ?」
逃げられない、怖い。掴まれている手首も痛い。こんな状況なのに…頭は驚くくらい冷静で、ただ、ドキドキしていた。
どうしてこんなことをするのか、それだけが疑問だった。
真くんは、わたしが好きだったこと、わかってるはずなのに、それなのにどうしてこんな、わざわざ嫌われるかもしれないようなことをするの?
「真くんは…わたしが嫌いなの……?」
そう問いかけると、バツが悪そうに舌打ちをして、
「…っ……んなこと直球で聞くとか、ありえねーから」
と、手を掴む力を更に強めて言った。
「真くん…手、痛いよ…離して?」
そんなわたしの言葉を無視して真くんは笑っていた。
「フハッ…そんな風に言えば、俺がお前のこと好きだとか言うと思ったわけ?浅はかだよなぁ、ほんと」
「違うよ…!ただわたしは」
「うるせーよ!それとも何か、俺の反応見て楽しんでんの?」
違う、違うのに……!
今まで見たこともない真くんの態度に、動揺し、並べられた暴言の数々にショックを受けた。
そしてそのショックは、わたしの涙となってあらわれた。
「ちがう…っ!わたしはただ、真くんが好きなだけなのに………っ」
嗚咽の混じった声で、初めて真くんに"好き"と伝えた。
こんな形で告白することになってしまったことに、なにか悲しい気持ちでいっぱいになる。
すると、その言葉を言った瞬間に彼の手の力が緩んでいくのがわかった。
「クソッ……ふざけやがって」
信じられなかった。
手を離したと思えば、身体を起こして、真くんに抱きしめられていた。
ほんの数秒にも満たないくらい少しだけだった。
それでもその感覚は、脳裏にすら焼き付いた。
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