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□好きとか嫌いとか
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赤司くんは、強い。



何にしても負けたことがないから、というのもあるけどそんなことよりも人間的にこの人を負かすことはできない。

そう表現する言葉すら生温い。



でもそんな彼の日常にわたしが存在していることに、ちょっと優越感を覚える。




「あーかしくん、なにしてるの」


いつもと違う猫なで声で赤司くんに話しかけてみても、反応はいたっていつもと変わらない。



「ちょっと髪を切ろうかと思ってね」



と、振り向くことなく鏡を見つめながらハサミ片手にわたしと会話する。その姿に何気なくときめくわたし。


こういうときって、ついつい後ろから抱きしめてみたくなる衝動に駆られるのだが、いつもそれっきりで実際行動に移したことは一度もない。


そんなことをすればどうなってしまうかなんて想像するだけで怖い。



それにたぶん赤司くんはわたしがそういう風に思ってることもわかっているんじゃないかと思う。


だからわたしはチョキチョキと慎重に少しだけ前髪を切る赤司くんをじっと後ろから見ていた。



「ねぇ、切ってあげようか?」



「気持ちは嬉しいが断る。みくの手の不器用さは僕が一番よく知っているんだから」



「そんなの、自覚済みだけどストレートすぎるよ赤司くん」



「……僕に構ってほしいのはわかった。仕方ないからそこでちょっとだけ待っててくれないか」




わたしの赤司くんに対しての言葉は華麗にスルーされてしまう。が、しかしやはり赤司くんはわたしのことなどお見通しらしく、わたしの望む言葉を伝えた。


すると赤司くんは手早く髪を切り終えてパサパサと前髪を軽くはたいてハサミを置いた。



今まで鏡のほうを向きっぱなしだった身体をこちらへ向けて"お待たせ"と笑顔をちらつかせる赤司くん。



かっこいいけど、それでいて何かものすごいオーラを感じる人だ、とふとその笑顔を見て思った。



「髪の毛、顔についてるよ」


そう言いながらパッパッと払ってあげると、照れる様子もなくすんなりと"ありがとう"と言われた。


もう、とことん赤司くんてばストレートすぎるんだから。そんなふうに言われたらわたしの方が直視できないじゃない。




ありがとうと言われてちょっと意識したせいで目を伏せたのだが、そんなの気にする素振りも見せないでわたしの顎をそっと持ち上げた。



キスされると思ったのだが、赤司くんはそんなわたしを見つめるだけだった。




「キスすると思った?」



「思っ……てないよ」



「相変わらずみくは嘘が下手だ」




あれもこれも見抜かれてしまっている。


だから、否定のしようがなかった。



「じゃあ、嘘だよって言ったら、してくれるの?」



「さぁ、どうだか」



「赤司くんの意地悪」




顎まで持ち上げてこんなに顔を近づけてきてもう寸止めに等しいのに、彼はいつだってこんな感じに簡単に焦らしてくる。赤司くんはわたしを焦らすのもお手のもの。





そんな彼の瞳に見入ってしまっていた。その先の言葉も失うくらいに。


それに気がついてもなお赤司くんはわたしを焦らそうとする。そういう人だとわかってるけど、やっぱりそれはわたしの欲求を高めるようなものでしかなくて。




結局、それに耐えきれないのはいつもわたし。


今日だってそれは例外じゃない。




わたしは虚ろな目をしたまま赤司くんの鎖骨あたりに両手をやって黙って自らキスをした。





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