「──仁王雅治。あれ、仁王。仁王来てないか?」
「今日もあいつサボりかよ。まっしゃあねぇっちゃしゃあねぇか」
朝の出席を取っているとき、またいつもみたいに仁王が来ていないらしい。
ぬーっとした顔つきで丸井がガムを膨らませていた。
はぁ…雅治ってばなんで今日に限って来ないんだか。
昨日電話であれほど言ったのに。
“そういえば雅治、明日誕生日だよね?”
“ほう、そうじゃの。覚えててくれたか”
“当たり前でしょ?渡したいものがあるから、明日はちゃんと学校来てよ?”
“行けたら行くナリ”
“もーっ!待ってるからね”
って言ったのに……。
あれはある種の約束でもあったのに、雅治が来る様子はない。大事な日に彼女を待たせるなんて…雅治ってば本当にいい加減なんだから。
呆れた様子でいたら、すぐに授業が始まってしまった。
「えー……ここの式は…となって………」
授業なんか身に入らない。
さっきからずっと教室の扉を見つめていた。
あの扉から、雅治がいつもみたいに「遅れてすみません」とか言いながら入ってくるのを期待して。
そんな期待は見事に裏切られ、3時間目も終了してしまった。
ほ、本当に今日は来ないの…?
初めて本気の不安にかられた。
ちゃんとプレゼントも持ってきたのに。
雅治の為だけに編み込んだマフラーだ。
これからもっと寒くなるし、誕生日である今日に渡したかったのに。
学校にも来てないのかな?
次の時間は体育だった。
でも出るつもりはなかった。なぜなら、なんとなく…だけど雅治が学校にいる気がしたから。
「あれあき、体育出ないの?」
「うん、ごめんね」
授業が始まって、しーんと静まり返った教室から、編み込んだマフラーを持って出た。
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