krbs

□01
1ページ/1ページ



「あ、ら?」

大学生活が残すところ後1年になった4年の夏、就職活動とか卒論とか色んなものに追われる日々。
今まで学校の為に生きてきた私が、いざ自分のやりたい職につけと言われてもいまいちピンとこない。
学校でいい成績を保つために勉強をしてきた。
試験が面倒だから推薦をもらうため教師うけを良くして内申点も上げていた。
ただそれだけで、中高の部活も強制だったから一番楽そうな部活に入ってそれなりの成績を残して、大学は履歴書に書くためだけに名ばかりサークルに入った。
高校野球なんかを見ると青春していて、無償に羨ましくなって、高校時代にもっと青臭いことすれば良かったなんて後悔しても後の祭りで、つまり何が言いたいかというと、生まれてこのかた一生心に残るような、真剣に物事に取り組んだことなんて何一つ無いということだ。
だからもう一度、高校生になりたい。
勉強を疎かにするなんてことは性格的に許さないから相変わらず勉学に励むとは思うが、もっと、高校生らしく、部活や恋や友達、死ぬ時にああ、いい思い出だ、なんて笑える事がしたい。
もう一度、チャンスを。そう願って誰もいなくなった講義室で目を閉じ、叶うわけがないと自嘲しながら目を開けた。


-act.1-


「あ、ら?」

そして冒頭に戻るわけだ。
確かに私は4年間過した大学の講義室にいたわけで、瞬きより少し長く目を閉じていただけで、でも気付いたら廊下に立っていた。
窓から入る日はもう夕暮れの光。
夢遊病にしては動き過ぎだ。
辺りを見まわしてみても知らない風景で首をかしげるばかり。
そこでふと気付く、窓に映る自分の姿。
制服、しかも知らないところの。
私は中高どちらもセーラー服で、基準通りに着ていたからスカート丈やカーディガンの色等それはダサい格好だった。
まあそれが制服なのだと割り切っていたから別に気にしていなかったが。
しかし今私が着ているものは憧れのブレザー。
なぜ?
一番手っ取り早い解釈はただの夢であるということ。
夢なら痛くないと聞くが、実際私がいつも見る夢では怪我をすれば痛いと感じるからここで頬をつねったところで何の意味もない。
ならどうするか。
あまりにも非現実的で非科学的なこの現象。
だがまあ、夢、ということで話を進めよう。そうしよう。
夢なら何時か覚める。
それがどのタイミングなのかはわからないけれどそういうものだ。
それまでもう一度高校生活を楽しめばいい。
折角私という意識をもったまま此処にいるのだから。
よし、と気合をいれて一歩踏み出した途端眩暈に襲われ、しゃがみこんだ。
しまった長く立ちっぱなしでいすぎた。
私は起立性低血圧で、あまり長い時間立っていると血圧がどんどん低下し、ひどい時は最高値も70を切ってしまう。
あの時は救急車で運ばれて本当に恥ずかしかった。
まあ今はさほどひどくないから少し休めば大丈夫だ。多分。
しかし帰りはどうしようか。
そもそも家はどこだ?…生徒手帳に書いてあるだろうから、最悪タクシーで帰ろう。
とりあえず今は少し休憩を

「大丈夫スか?」

そう問いかけられた声に顔を上げると、金髪でピアスをしている長身の男の子。
なんとまあイケメンですこと。
おばさんびっくりしちゃったわ。

「あの…」

イケメンくんの顔が困ったように歪む。
しまった不躾に見過ぎたわね。反省。

「ごめんなさい大丈夫よ。少し眩暈がしただけなの」

そうよね、普通人がこんなところでしゃがみ込んでいたら驚くわよね。
申し訳ないことをしたわ。
ごめんなさいイケメンくん。

「ならいいんスけど」
「声をかけてくれてありがとう。それじゃあ」

とても素敵な目の保養になったと内心一人頷きながらその場から去る。
…去ったのはいいが

「家、どこ」

早くも問題発生。
かっこよく決まらないものよね人生って。


-----------

黄瀬くんちょっとだけ登場。名前変換も無ければ絡みもないがな!



[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ