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「おっ昼!おっ昼!」
授業終了のチャイムが鳴ると同時に樹がうれしそうにお弁当を私の机に広げた。
樹は150pギリギリという小さめの身体のわりに凄く食べる。
実際机に広げているお弁当は女の子用の小さいものでも、男の子用の大きめのお弁当箱でもない。
三段の重箱だ。
いったいどこに入るのか。
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「謎だわ」
「ん?はにー?」
「飲み込んでから話しなさい樹」
「んぐ。はーい」
元気に返事をしたそばからまた口にモノを詰め込む樹。
「いっつも思ってたけど雪野ちゃんのお弁当美味しそうだよね!」
「そう?樹の方が美味しそうよ」
「うーん、家のはシェフが作ってるけど雪野ちゃんのは違うでしょ?」
「そういうものかしら?」
「そーだよ!ってことで卵焼きいただきっ!」
「はいはい」
樹の家は一般家庭よりも裕福なようで、家にメイドやシェフがいるらしい。
確かに彼女は活発だが食べ方や姿勢はきちんとしているので頷ける。
「あ!そういえば」
「白岡先輩!」
樹がふと何かを思い出したかのように発した声はここ最近よく聞く声に遮られた。
「黄瀬くん?」
「どもっ」
先輩だらけの教室になんの戸惑いもなく黄瀬くんは入ってきて、ちょうど空いている隣の席に座った。
「どうかしたの?」
「ちょっと用事があってこの階にきたんスけど、白岡先輩がいるの思い出したんで」
顔見によっただけっス。と爽やかに笑う彼。
つまり用事はないってことね。
彼の考えていることがよくわからないのはまさか、ジェネレーションギャップってやつかしら。
首をかしげながら樹を見ると固まって黄瀬くんを凝視していた。
「樹、彼は一年生の」
「き、黄瀬涼太」
彼の名前を告げる前に樹の口から黄瀬くんの名前が出た。
「あら、知り合い?」
「え、もしかして雪野ちゃん黄瀬涼太知らないの?!」
なんかこの反応前にも一度あった気がする。
「彼、でしょう?」
「そうじゃなくて!ちょっとまって!確かみっちゃんに借りた雑誌が…っと、これ!」
「…あら、そっくり」
「本人本人!」
重箱を端に寄せて目の前に出されたのは女性用ファッション誌。
その表紙と隣に座る彼を見比べる。
黄瀬くんは困ったように笑いながら頬を掻いた。
「黙ってるつもりはなかったんスけど、わざわざ言うことでもないかと思ったんスよ」
「まあ黄瀬くんは黄瀬くんだものね。でも凄いわね」
「え?」
「学校と仕事両立しているのでしょう?おまけに部活まで。私は両立とか出来るほど器用なタイプじゃないから。黄瀬くんは凄いわ」
樹に渡された雑誌は今回黄瀬くんの特集がくまれているようで、そのページをめくる。
雑誌に載っている黄瀬くんは普段の後輩の様なオーラではなく、モデルとしての黄瀬涼太だった。
それにしてもやっと妙に廊下から視線を感じる理由がわかった。
さっきからやたら女の子たちの視線がグサグサ突き刺さっていて、視線に殺傷能力が無くて本当に良かったと思う。
「それにしても珍しいね!雪野ちゃんテレビとかあんまり見ないの?」
「ニュースなら見るわよ」
「えー!ニュースとか嫌い!」
「ニュースに好きも嫌いも無いでしょう」
「あれ?でもでも、なんで二人は知り合い?」
「いろいろ助けてもらったのよ。あ、そうだわ黄瀬くん。…黄瀬くん?」
雑誌から顔をあげ黄瀬くんを見ると彼はこちらを見たまま固まっていた。
そんな彼の顔の前でひらひらと手を振ると黄瀬くんはびくりと動いた。
「あ、なんスか?」
「彼女、転校初日からの友達で園山樹よ」
「雪野ちゃんのお友達第一号だよ!よっしく!」
「よろしくっス。…あの白岡先輩」
「なあに?」
「俺も名前で呼んでもいいっスか?」
「ええもちろん。好きに呼んで?」
呼び方にこだわりはない。
変なあだ名で無ければ。
ただ、今まで生きてきて名前呼びはあまりされたことが無かったので樹の時といい、少し照れる。
あの頃は基本名字で呼び捨てが多かったし、後輩には先輩呼びではなくさん付けで呼ばれるのが何故かうちの学校の文化だった。
まあ慕われている感があって嬉しかったけど。
「って、樹。人のおかずを勝手に食べないの」
「だって雪野ちゃんの春巻き美味しいんだもん!」
「まったく、褒めても何も出ないわよ」
「勝手に貰うからいいもーん!」
良くはない。
まあこうなることは今までの経験でわかっていたので少し多めにおかずを詰めるようにしているからいいけどね。
「それ、雪野先輩の手作りなんスか?」
「そだよー!雪野ちゃんの料理めっちゃ美味しいんだから!」
「なんで樹が威張るの。それに大げさ…黄瀬くん?」
「俺も食べたいっス」
「いいよいいよ!一番のお勧めは卵焼きだったけどないから、次は春巻きがお勧め!」
「雪野先輩!春巻き食べたいっス!」
「え、もう…はい」
きらきらと見つめられてノーとは言えない。
日本人なので。
仕方なく最後の春巻きを箸でつかみ黄瀬くんの口元に寄せる。
手で食べるなんて不衛生だからね。
しかし一向に口を開かない黄瀬くん。
春巻きを見たまま固まってしまった。
「黄瀬くん?」
「う、あ、えっと…イタダキマス」
視線を色んなところに彷徨わせてから口を開いた黄瀬くん。
なんで片言なのかはよくわからないが、取りあえず開いた口に春巻きを入れる。
「どうどう?美味しいでしょ?」
「…うまっ、めっちゃ美味いっス!」
「でしょでしょ!」
「二人とも大げさよ。でもそう言ってもらえるとうれしいわ。ありがとう」
「大げさなんかじゃないっス!」
「そうだよ!私が毎日どれだけ雪野ちゃんのお弁当楽しみにしていることか!」
「ええー!ずるいっスよ園山先輩!俺だって毎日雪野先輩のご飯食べたいっス!」
「残念でしたー!」
なんか二人で盛り上がっているうちに自分のお弁当を食べる。
さすがにこれ以上食べられると終業までもたないからね。
それにしても
「黄瀬くん、お昼はもう食べたの?」
「ここに来る前に食べてきたんス。俺いつもパンなんで」
「え!パンじゃお腹膨れなくない?!」
それは樹、あなたくらいよ。
「膨れないことは無いんスけど、物足りない感はあるっス」
「お弁当は?」
「俺一人暮らしなんスよ。夜はまだしも朝練があって昼まではつくれないっス」
「黄瀬くん一人暮らしだったの?」
「実家は東京っス」
男の一人暮らし、しかも高校生で運動部。関係ないけど不安だわ。
モデルの仕事もやっているのに心配。
「…黄瀬くん」
「なんスか?」
「私でよければお弁当、作ってきましょうか?」
「まじっスか!」
「え、ええ。さすがに食生活が心配だわ。それに、いろいろ助けてもらったからお礼しなくちゃね」
そうよ。
ちゃんとしたお礼をまだしていなかったもの。
お弁当なんかでよければいくらでもつくるわ。
「まじで嬉しいっス!」
「えー!黄瀬くんだけずるいー!」
「樹のお弁当作っていたら家が破綻するわ。おかずわけてあげるから我慢してちょうだい」
「ちぇー。じゃあじゃあ、卵焼きだけは毎日だかんね!」
「はいはい。黄瀬くん、好き嫌いは」
言いかけた途中で五分前の予鈴が鳴った。
「やば!えっと、またメールするっス!それじゃあ雪野先輩、明日から楽しみにしてるんで!」
ばたばたと黄瀬くんは教室を出て行った。
私と樹も机の上を片付け、それぞれ授業の支度を始めた。
取りあえず今日は帰りに大きめのお弁当箱を買って帰ろうと一人頷いた。
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なっが!だいぶハイペースで会話文ばかり申し訳ない。