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100対98と最後はブザービータ―で決められ、海常は負けた。
涼太くんは初めての敗北に呆然と涙を流していたが、キャプテンさんに後ろから蹴られながら喝を入れられていた。
きっと大丈夫。
涼太くんならもっと強くなれる。
漠然とそう感じた。


-act10-


「…負けちゃった」
「そう、ね」
「…気になる?」
「…少しね」
「じゃあ…」
「なあ!」

樹の言葉を遮るようにかけられた声の方を見ると、そこにいたのはキャプテンさん。
どうしたのかと樹と二人首をかしげる。

「悪いんだが、黄瀬のとこいってやってくれないか?」
「え?」
「頼む。水道の方にいると思うから」
「えっと、あの」
「じゃあ頼んだ!」
「ちょっ…行っちゃった」
「あの人もああ言ってたし、行ってきなよ!」
「…そうね。ちょっと行ってくるわ」
「行ってらっしゃーい!」

樹に手を振り、キャプテンさんに言われた通り涼太くんだいるであろう水道へと向かった。
彼の後姿に声をかけようとしたが、誰かと話しているようだったので、邪魔にならないように影に隠れた。
緑髪の男の子が去ったのを見て涼太くんに声をかける。

「お疲れ様、涼太くん」
「雪野先輩…スイマセン」
「え?」
「俺、あんなに調子のって先輩呼んどいて負けるとか…ホント、格好悪いっスよね」
「そんなことない!」
「っ?!」
「だって、楽しかったでしょう?負けて、悔しかったでしょう?それって本気でやったからよね?」
「…」
「涙もその証だもの。涼太くん、すっごく格好良かった」
「雪野先輩っ!」
「きゃっ」

ぎゅっと涼太くんに抱きしめられ、水分を含んだ髪が頬にあたる。
震える彼の背に腕をまわして力を込めれば、彼の力もまた強くなった。

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「じゃあすぐ着替えてくるんで待ってて下さい」
「ふふ、ゆっくりでいいわよ」

部室へとかけていく彼を見送った。
あれから暫くして落ち着いた涼太くんと一緒に帰ることになった。
部活の人と帰るのだと思ったけれどそうでもないらしい。
ついでにお腹もすいたからお昼を食べにつもりだ。
何を食べようか考えていると涼太くんが走ってきた。

「スイマセン!待たせちゃって」
「そんな、走らなくてよかったのに。あ、そうそう。はい、どうぞ」

涼太くんを待っている間に近くにあった自販機で買ったスポーツドリンクを渡す。
涼太くんはお礼をいうと、すぐにキャップを開けて飲んだ。

「んじゃ、行きましょっか。雪野先輩何食べたいっスか?」
「そうね…涼太くん試合で疲れてるだろうし近場にする?」
「や、そんな気にしなくて大丈夫っスよ。つっても、どこも昼時だから人いっぱいっスね」

学校から出てフラフラと昼食が食べられそうな場所を探すが、どこも席がいっぱいでなかなか入れずじまいだ。
どこかないかと歩いていると、タイミング良くステーキ店から黒子くんが出てきた。

「黒子っち」
「黄瀬君、と…?」
「あ、黒子っちにも紹介するの忘れてた。それも兼ねてちょっと話さねぇスか?」
「…?」
「雪野先輩、そういうことなんで…」
「気にしないで?それじゃあまた…」
「ちょ、ええ?!なんで?!そうじゃないっス!昼は黒子っちと話した後でいいかってことっス!」
「でも、部外者の私がいたら話しにくいでしょう?」
「そんなことないっスよ!ね、黒子っち!」
「はい。別に気にしません。それに…貴女の事も知りたいです」
「そう?それならお邪魔するわね」
「んじゃ、あっちに公園あるからそっちで話そう」

三人で公園へと向かい、ついたのは隣にバスケコートのある小さな公園。

「…てか、こうやってちゃんと話すのも久しぶりっスね。ケガ、大丈夫スか?」
「そうですね。ちゃんと手当してもらったので大丈夫です」
「よかった。あ、この人は同じ学校の先輩で…」
「海常高校二年の白岡雪野です。よろしくね」
「誠凛の黒子テツヤです。よろしくお願いします」
「やっと紹介できたっス。てか、あーあ。黒子っちにもふられるし、試合にも負けるし散々スわ」
「…すみません」
「…冗談スよ。そんなことより話したかったのは…」
「涼太くん、私何か飲み物買ってくるわね」
「え、雪野先輩?」
「すぐ戻るから二人はそのまま話してて?」
「ちょ!…いっちゃった」
「気を使わせてしまいましたね」

なにやら深刻な話をする様な空気だったので、飲み物を買いに席を外した。
二人はああ言っていたけれど、やはり初対面に近い部外者がいたら話しにくいだろう。
二人の姿が見える場所にある自販機の前で何を買うか迷っていると見覚えのある姿が目に入った。

「あら?大我くん?」
「あ?…雪野じゃねえか。お前なんでここに」
「涼太くんに誘われて貴方達の試合見た帰りよ」
「来てたのかよ。てか、黒子しらね?」
「おめでとう。格好良かったわ。黒子くんならあそこに…」

振り返り涼太くんと話している黒子くんを指差す。

「あいつこんなとこに居やがった!」
「私もすぐ行くから先に行って?あ、何飲みたい?」
「おー。んじゃコーラ」
「ふふ、相変わらずね」

二人に近づく大我くんを見送り、ボタンを押す。
四本の缶を両手で抱え、三人のいる場所へ行こうとした時、バスケコートが目に入った。
柄の悪い一人が相手の鳩尾に蹴りを入れたのだ。

「ちょっと…」
「どう見ても卑怯です。何より暴力はダメです」
「黒子くん?」

注意に入ろうとしたが、黒子くんの方が一足先に彼らを止めに入った。

「はあ?!なんだてめえ?!」
「いーぜ別に。バスケで勝負してやるよ。その代り、勝ったら勿論君が相手してくれんだろ?」
「きゃっ」

男に腕をつかまれ引っ張られる。
どうしようかと困っていると黒子くんの後ろに頼りになる二人が見えた。

「あのーオレらもまざっていいっスか?」
「いきなり何かましてんだテメー」
「つかマジ、何勝手にその人に触ってんの?」
「いててててててて」

つかんでいた男の手を捻り上げ、腕を離す。

「5対3でいいぜ、かかってこいよ」
「雪野先輩、すいませんけどコレ持っててもらっていいスか?」
「ええ、勿論」
「んじゃま、やるか」

それからは何も言うまでもなく、彼らの圧勝。
瞬殺ってこういう事なのだと感心した。

「お前は何考えてんだ!」
「あの人達はヒドイと思いました。だから言っただけです」
「その先を考えろって…」
「雪野先輩も、あんな無茶やめて欲しいっス」
「あの、ごめんなさい」
「手は大丈夫スか?」
「少し赤くなっただけだから大丈夫よ」

掴まれた腕は少し赤味を帯びていたが、痛みはない。
大丈夫だと袖をまくって見せると涼太くんは心配そうに眉を寄せた。
そっと労わる様に撫でる手が優しくて、何故か心臓が跳ねた。

「雪野も!」
「え!」
「女なんだから無茶すんな」
「…はい」

さっきまで黒子くんに怒っていた大我くんに頭を撫でられる。
昔は逆だったのに、なんて思いながら大人しくしていたら、涼太くんの手が大我くんのそれをはらった。

「なにすんだてめっ」
「こっちの台詞っスよ。あんま雪野先輩にべたべた触んないで欲しいんスけど」
「はあ?!そんなことテメーに関係ねえだろ?!」
「大有りっス」
「二人とも落ち着いてください。白岡さんが困ってます」

間に挟まれどうしていいのかわからずいると黒子くんが助け舟を出してくれた。
二人は数秒睨みあうと視線を外した。

「じゃ、オレらはそろそろ行くっスわ」
「二人とも今日はありがとう」
「あ、火神っちにもリベンジ忘れてねっスよ!」
「火神っち?!」
「黄瀬君は認めた人には『っち』が付きます」
「やだけど!てか雪野!メアド!」
「黒子くんに教えておいたわ!」
「ちょ、お前いつの間に?!」

大我くんと黒子くんに手を振り、涼太くんの隣を歩く。
彼はどこか楽しそうに笑っていた。

「楽しかった?」
「最後に黒子っちと一緒にプレーできたからそうっスね!」
「ふふ、そっか」
「てか腹減ったスよね。ちょっと話すだけのつもりだったのにスイマセン」
「私も楽しかったから気にしないで?それより、この時間ならどこも空いてそうね」
「そうっスね。ならいいとこ知ってるスよ。雪野先輩嫌いなものありますか?」
「下手物以外なら基本的に大丈夫だけれど…胡瓜は苦手ね」
「きゅうり、スか?」
「あの青臭さがどうしても、食べられない事はないけれど好き好んで口にはしないわ」
「なんか意外っス」
「そう?涼太くんは好き嫌いあるの?」
「嫌いな物は特に無いスね。最近はまってるのはオニオングラタンスープなんスけど」
「栄養バランスは大切だものね。オニオングラタンスープ?好きなら作ってあげたいけど…お弁当には入らないわね」
「雪野先輩の手作り食べたかったス」
「…じゃあ、今度家来る?」
「いいんスか?!」

落ち込む涼太くんにそう声をかけると嬉しそうに笑った。
そんなに好きなのね、オニオングラタンスープ。

「え、ええ。でも普通にお店で食べた方が美味しいと思うけれど…」
「そういう問題じゃないんスよ。っと、ここっス」
「?…お洒落なお店ね」
「料理も美味いんスよ」
「ふふ、楽しみ」

涼太くんにエスコートされながらお店に入り席に着く。
メニューを見るとオニオングラタンスープがあり、彼の味の好みも知りたかったのでそれを注文した。
美味しい料理を食べながら涼太くんと他愛のない話しをしていたら、彼の携帯に着信が入り、お開きとなった。
どうやら仕事が入ったようで、彼は謝りながら走って駅へ向かった。
それを見送り、私も家路につく。
その間考えていたのはオニオングラタンスープについてだ。


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原作沿いってやっぱやめときゃよかった。原作沿ってるとヒロインが空気化するし、かといってヒロインが出しゃばるのもどうかと思うわけで。火神と黄瀬くんのコンビを書くのが楽だと気付いた。雪野ちゃんが持ってた缶の行方についてはスルーで。そして絶対黄瀬くんは胡瓜を漢字変換できないと思う。が、そこが可愛い。


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