長編   Mask

□Mask episode 9
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「シャドウ!来てくれっ!」

夜の静寂を突き破るマチの声。
それは、ヒトガタの小竜がようやく泣き止んで、移動を始めて2時間。朝になれば、行き先が二手に分かれる。クロロに嬰児の入った瓶を預け2,3人のバラで歩いていたところだ。 必ず、港町で合流しろというクロロなりの保険だ。

 ここは中規模都市、駅も空港にも直結している。わざわざ何人か分散して歩きを選んだのは、個性派揃いの容姿と人数、そして、何よりもクラピカをこれ以上刺激しないようにという配慮だった。・・・その筈だった。


 ビルの建ち並ぶ中にぽっかりと開いた空間。おそらく、誰もここにこんな小さな公園があるなどと気が付かないのではないか?いや、既に公園ではなくなっていたが。












 呼ばれて駆けつけた、そこは、凄惨な殺人現場だった。
生の肉が焦げるひどい臭い。あたりに散るおびただしい血。
その中心に立っているのは・・
立っているのは・・?  碧い髪?小竜か?

 その時、夜空の雲が晴れ、月がわずかに三角に切り取られた空から照らす。 金の髪だ。急いで月影にダイブした。

「ピカ?」

背中から呼ばれ、ピクリと肩を震わす。
バカなっ!?背後に人が立っていることを感知出来なかったのか?俺じゃなかったら、どうするつもりだ?振り向きもしない。影だとわかっているからだ。
 正面に回りこみピカの瞳を確認する。

「つっ・・お前なっ」

瞳は薄いレイクブル−。顔面蒼白。まるで亡霊だ。思わず、足がちゃんと有るか?見たほどだった。お前が殺ったのか?訊くまでもない。まともに返り血を浴びて、ぐちゃぐちゃだった。同時に疑問が湧く。ピカらしくない。綺麗にスマ−トに。それが無い。しかも、自ら手を下さなくとも、命じさえすればいくらでも人は居るのだ。その前に、コイツは誰だ?
 焼け焦げた死体に集まった団員で確認をする。

 それが、ようやく手だと解る塊から、ポロリとライタ−が転げだした。誰もが見慣れた、それは・・・
 
 バショウ愛用のジッポ−だった。





そのまま本体ごと小竜化。5mの竜に成り低く2回旋回する。(これは見たことがある!)
「全員退避!」
俺の声に一斉に散る。センリツがジッポ−を拾うのを忘れなかった。
 小竜は一気に20mほど上昇し、まっすぐ降りて来る。
口から火玉を吹いた。

 パン!

死体の跡形も無くなった。














小竜-side







たくみなことばに
ワカ様の こころがゆれる
ウィ−に みんなが ちゅうもくしている
このじかんに
いちばん あぶないばしょに
ひのめを とりにいく


ゆだんはできない

じめんのしたで
まちぶせていた
つわものがいたほどだ
つきが かくれた わずかなすきに
ワカ様は
いきなり あしくびをつかまれた!

「たのむ!!」
小竜に たったひとことのこし
バショウが すてみのじばくで
ワカ様をまもった
ただ
えんりょして ふかんぜんなもえかたになり
小竜が けしてあげた

ワカ様は 雷遁と軸と
小竜の空間移動の3つをあわせ
みんなをまもりたかったのに
まにあわなかった・・
まきついていたウィ−に
きをとられ
ナイフでさされた


シャドウは

シャドウは

おくれてきた








「何も言うなっ!!」



きびしく いいつけられた




もしかして
よそくしてた?
ワカ様は
バラバラになることで
シャドウをまもった?



おもった

もう りだつ しない!

まもるよ・・

 

















 同時に血まみれのピカ化。再び表へ出てきたピカは、自分の足で立っていられないらしい。ゆっくりと崩れる。(何っ?)意外なことにそれを受け止めに走ったのは、俺よりもシャルが先だった。


「計画、変更」
クロロが小さく、しっかりした声で指示を出す。クラピカを抱いているシャル以外で、公園の敷地の一辺に列を成す。両手を横に広げしゃがみこむ。この一尋分を一歩ずつ全進しながら凝で地面を見つめ遺留品を拾い出す。シズクが居ない今は、人力で、しかも一番確実に証拠隠滅を図れる作業なのだ。その作業を縦横2回きっちり行い、現場を去る。

「こっちだよ」

先回りしていたマチが、どうやらこの時間から休める場所を探し出してきたらしい。

「ただし、部屋に入るのは団長、クラピカ、シャドウ、シャル、センリツ。あとは外回りだよ」
マチがその場を仕切っても、誰も文句を言わなかった。マチはそのまま、手早くクラピカの服を剥ぎ取った。「捨ててくるよ」そういい残し、また消えた。
クロロがシャツを脱ぎクラピカに着せろ、と、シャドウに手渡した。フィンクスとシャルでピカの体を支えながら手を通した。小竜が、自分の体をシャドウ以外に無断で触られたことに敏感に反応、バリバリと衝撃派を伴い放電した。強い。
「こうなっちゃ、誰もなだめられないや」
固いガ−ドを掻い潜りバショウはクラピカと二人になる時間があったのか?そして、なにがあったのか?謎のままだ。











「ふうん・・朝までボクを待たせるとは、随分とお高いことだねっ?」
 一部始終を高いビルから見ていたヒソカだったが、そろそろ待ちくたびれてきた。





『助けてくれ!』

はぁ?

クラピカからのいきなりのメ−ルは、たった一言だ。
ボク風に訳すと『鎮めてくれ!』かなっ?きっと。
ゾクゾクすることがあったんだネッ★
 さて、何処で拾うかなっ?






(・・くっ・・)
(ワカ様?大丈夫?いいよ、小竜のオ−ラを食べてっ)
(助けてくれっ!)
(じゅんばんに、はなして おねがい ひとりでかかえないで!)
(お前は、私を信じるのか?)
(それしかなかった でも ほかのひとには わからない)
(・・そうだな・・)

 




 再び、ピカは小竜のヒトガタに変化した。さっきは気が付かなかったが、小竜は怪我をしている。ピカと小竜が、殺りあう筈は無い。
「くろのえんがほい」  おねがい きがついて
「ほしい、だろ?」
「いそいで ちいさく ないしょ」  ちがう
「わかった」  わかってない

これまでで最小の黒の円が出現した。


「いまから ワカ様に こえをかしてあげる」  いって
小竜は、奥にひっこんだ。再びピカの姿に戻る。
めまぐるしい。
「おいで」
冷たい手を引き寄せた。
青い顔をしたピカは、素直に俺に従った。血の臭いがする。体をざっと調べた。・・返り血じゃない!お前の血だったのか?シャツを着せるのに抵抗した訳。左上腕の内側。ナイフかっ?どうやったらこの形に切られる?毒は塗られていなかった?何かを庇ったのか?・・かなりの失血だ。ぞっとした。すばやく手当てを施した。ゆっくりと気を送り込む。ピカは身体の力を抜き、横になった。束の間の安息。厳重に被っていた仮面を外し、素のまんまのピカが顔を出した。そんな眼をするな・・やがて手当ては愛撫にかわった。
「どこから話せばいい?」
ピカの声だ。泳いでいた眼が、偉そうに俺を見据えた。白い腕が俺の首に巻きついた。ああ。俺のピカだ。
「なあ。まず、久しぶりの再会から、やり直さねぇか?」
 返事はキスで返って来た。
眼が問う   (・・やり直しとは?)
「小竜とピカはひとつなんだろ?だったら念の共有は出来ないのか?それから、俺の仕掛けたトラップに賊が掛かった。退治してくる。すぐだ。待ってろ。・・こう言いたかったのさ。そして、センリツに化けたクロロにお前はやられる。しかも小竜が飛び出して、バショウに肩を外されるわ、散々だな?」
「どう・・して、影抜きに遭っていることをっ・・黙っていた?」
「心配するだろ?・・それに、意地が邪魔した。
悪かった。・・お前に本部から討伐令が出ている。ん・・時期を同じく、俺とピカに逢いたいと、弟が。名前はウイング。念の関係での兄弟だ。・・血のつながりは無い。二人ともビスケが親だ。
つっ・・ウイングはズシという弟子が居て、ピカに会わせたいそうだ。・・ピカの抱えている秘密は何だ?」

体位を変えた。
目線を流した。大丈夫だ、外には聴こえない。
悪いが、いっぱいいっぱいだ。
 

「・・小竜が鳴いて、親の龍が飛んで来た。・・そこで、憑いてきた生霊を天に還してくれと。だが、私は彼らに、もうひと働きしろと命じたんだ。霊分身。・・ぜ、全部で15匹居る。1匹はチビで念が何かもわからない。これ・・だけは手元におくことにした」

ピカの金糸がサラサラと向きを変える度に、ちょろちょろとしているこれがそうか?しっぽが出ているのだが、本人はちゃんと隠れたつもりだ。さっきは俺が髪を撫で付けたら、固まっていたな?

「なるほど?」

「そうだ。貴様に黒ヒョウをやる。名前はアクセル、影に向いている。直接の主人は貴様だと言い渡してある。好きに使え」
「それか?俺がさっきからピリピリしているのは、そ こ だ っ!」
「あっ・・」
「くっ・・」



「黒の円を広げろ、そして呼んでやれ」







甘い時間は、もう終わった。

言われるままに、円を広げた。

「アクセル、姿現しをして挨拶ぐらいしたらどうだ?俺がシャドウだ」

 シャドウの足元の僅かな影からアクセルが姿を現した。サ−カスのトラが輪くぐりをして出てくる、あんな感じだ。その大きさに驚いた。まぁ、5mの小竜には負けるが、床から背中までの体高がゆうに1m、頭から尾の先までは2mといったところだ。全身黒で瞳は金色。侍に例えるならば独眼の伊達政宗か。
「気が合いそうだな?」
シャドウがアクセルに声をかけると、頭を低くしたままシャドウの後ろを通り左脇にピタリと座った。


 血の臭いがした。







「何を食べるんだ?」
「特に何も。はじめに貴様の息を吹きかけろ。指令のあとはオ−ラを少し」 (ワカ様っ)
 呼気か。体内を巡ったあとの息。気を帯びている。
「生気を吸い取るのか?」
「何も・・少し憑くだけだ」 (ちがう)
「ピカには、小竜と15体が憑いているってか?」
「小竜は私だ、問題ない。念の共有についても、緋色、紫、ともに使用可能だ。ただし時間が短いがな。依然として鎖の結晶化には不安がある。アクシデント続きで私が安定していないせいだ・・15体は、いずれも小動物だ」 (いわないなら かわって!)
「はあっ・・服を着ろっ」
 言葉を選んでいる。15体へ生気を分配。パワ−不足もいいところだ。
「脱がせたヤツが着せる決まりだ。・・霊の14体はアクセルを中心に伝令を飛ばすことが出来る。陸班と空班、大きく二つの脈がある。末端からの情報を即座に吸い上げられる。発令は網の頂点の私からでも貴様からでも、もちろんアクセルが現状を見て出せる。緊急用に小竜から霊体への一斉伝達もアリだ。・・・これにはかなりのオ−ラが要る。情報は素早く伝わるがインタ−バルの間、私がノ−マ−クに成る。14体の内訳を言ったほうがいいのか?」 (それでつたわるの?)
「よせ。その格好でむずかしいことを言っても、誘っているようにしか見えない、手放せなくなる、服を着ろ。14匹を一気に紹介されても覚えきらないし、第一、顔を見ることも無い。要はピカが苦手な影分身を、そいつらが代わりにするってことだな?」
「そのとおり」 (ちがう ちがう!)

クロロのシャツを捨て、俺の服を羽織った。














話の輪郭が見えてきた。はぐれ、追い詰められ、バリバリに乾ききり、ささくれ立っていたお互いの気持ちは少し潤った。まだだ。その言葉の裏に何を隠している?喋るだけで、どうして肩で息をする?

「で?俺とやったその身体で、今からヒソカに抱かれるのか?」
「訂正しろ。クロロにやられた私を貴様が抱きなおしたと。・・・今更。嫉妬か?独占欲か?人数など数えてどうする?貴様に報告する義務は無い。それに、ヒソカは私の大事な客だ。ヤツの情報と機動力はそれだけの価値がある。大丈夫だ、心までは抱かれない。」

 そんなセリフを視線を外しながらサラッと言うなっ!
ピカがもう一度、俺の首筋に顔をうずめる。そして信じられない言葉を聴き取れるギリギリの声で囁いた。

「貴様だけだ」
  
 お出かけのキスか?お別れのキスじゃないよなっ?嬉しさよりも別れの恐ろしさで鳥肌が立った。
 身体を離すとまるで何も無かったように、冷めた眼で俺を見据える。ピカのスイッチが切り替わった瞬間だ。

「では、手筈どうりに」

この言葉を最後に、小竜に戻った。
命じたままにアクセルが、闇に消えた。(すげえ!)

ピカをここで手放すのは辛いが、作戦の為にはしかたない。
 動き出しそうなピカのダミ−を残し不思議な数字を読み上げ、消えた。

「くそっ!!」
ヒソカとピカを想像し、脳みそが沸騰した。

 天井から、金のちびヘビがペタッと降ってきた。
コイツ・・纏も出来ないから、置いていかれたなっ?
「ピカに憑いて行きたいか?」
手首に心細げに巻きつくヘビに話しかける。
ヘビは10回ぐらいうなずいた。
「まずは、基本からだ。俺は小せぇからって教え方を変えないぞ!いいか?」
・・・ちょっと返事までに 間があった。
「冗談だ。たとえお前さんにでも教えれば、俺はピカから殺される。他をあたれ・・」
・・・ヘビは、明らかにホッとした。すぐさまダミ−のピカに向って進んだ。何度も滑り落ち、それでも諦めず、ようやっと髪の中に隠れた。どうやら、そこが落ち着くらしい。贅沢なチビだ。
(あと二時間でそれは蒸発するが?まぁ、そのとき考えろ)












「やあ★遅かったねっ?」
ヒソカが、嬉しそう〜に、クラピカを見つめた。
クラピカは、前倒しになりヒソカに抱き取られた。
「朝までには、まだ少〜し 時間があるよ ねっ☆」

クラピカは、ぐったりとヒソカに身を任せた。

「どうしちゃったの?おとなしいねっ?ま☆それも可愛いけど?」







それから、先に報酬を受け取ったヒソカは、とんでもないことをやる羽目になった。











しばらくして、シャドウは大変なことに気が付いた。

鎖。繋いで行かなかった。リバ−スも無し。
霊分身で処理する?まさか俺を呼ばないつもりか?
インタ−バル?入れ替わった瞬間ノ−マ−ク。
本当に言いかったのはコレか。  

ピカ・・お前・・

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